第六十八章 卒業祭~楽日~ 4.ネモ班出動
~Side コンラート~
行方不明の少年の捜索に、自分たちも一肌脱ぎたい……という殿下たちの希望は、〝足手纏いはすっ込んでろ!〟と、ネモに一蹴されて終わった。正直、殿下の身の安全を考えると、自分としても賛成しかねるというのが本音だったから、ネモの一喝に内心でホッとしたのだが……
「お待ちになって、ネモさん。捜索の具体的な腹案はおありですの?」
……などと、レンフォール嬢が言い出したのには不安しか無かった。
「具体的な……腹案?」
「えぇ。ネモさん、仰いましたわよね? 〝数を恃んでの捜索が最適だが、その一方で目立つ動きは悪手〟だと」
「あ、あぁ……そうだが?」
「でしたら、【従魔術】で小鳥たちからの聴き取りが出来る私は、恰好の捜索者という事になりますわね?」
「………………はぁっっっ!?」
ネモも、そして自分たちも度肝を抜かれたが……落ち着いて考えれば、レンフォール嬢の主張にも一理あると解る。
小鳥たちを動員して捜索や訊き込みに当たらせる事ができれば、〝数を恃んで、なおかつ目立たないように〟という条件は確かにクリアーできる。これは……ネモはどう対応するつもりだ? ……不謹慎だが、目が離せなくなってきた。
ネモが反論に苦慮していると……次に進み出たのはアスラン様だった。
「ネモ君が心配しているのは、子供が悪人に拉致されている場合なんだよね?」
「あ、あぁ……そうだが?」
ネモは先程に輪を掛けて警戒しているようだが……無理もないか。
「エルは狩猟民の出だから、足跡その他のフィールドサインを読み取って跡を追う技能にも長けているんだけど……これって、捜索の役にも立つんじゃないかな?」
「………………」
「だけどエルは僕の従者だから、僕の傍を離れる事はあり得ない。つまり、エルが捜索に参加するには、僕の同行が前提条件になるよね?」
「………………」
「今はとにかく子供の安全確認が最優先。違うかい?」
「………………」
あぁ……苦い表情で黙りこくったネモを見て、ジュリアン殿下の視線がこっちを向いた。……これはもう駄目だな。
「レンフォール嬢とアスラン君が参加するのに、僕だけ指を銜えてお留守番……というのは、王家の矜恃に懸けても承服できないかなぁ」
あぁ……やっぱりこうなったか。
ネモが縋るような目付きでこちらを見ているが……諦めろ。宮仕えには諦めも重要なスキルなんだ。
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~Side ネモ~
お嬢やアスラン・エルはまだしも、ジュリアンの馬鹿までが外に出ると言い出した時にゃ、思わず頭を抱えそうになったぜ。幾ら何でも一国の王子が、護衛も付けずに学園外に出られるわけが無いだろうが。かと言って、馬鹿正直に護衛の騎士をゾロゾロ引き連れて動いてたんじゃ、何かあったと大声で触れ廻るのも同然だ。犯人に気付かれないようこっそり探す――って、当初の目的に背反するだろうが。
……いや、ジュリアンたちを囮に使って――という手は考えられなくも……駄目だ駄目だ。外聞とか他聞とか言う前に、それだと騒ぎを起こす事が前提になる。本末転倒これにあり……ってなもんだ。
そういった道理を前に押し出して、ジュリアンを喝破しようとしたんだが……思ったようにはいかなかった。
「大丈夫! 前回の一件で発奮した魔導師長が、闇魔法を利用した姿変えの魔道具を開発してくれたから」
……魔導師長~~~っ あんた何てもんを作ってんだ! 〝猫に鰹節〟とか〝酒乱に酒樽〟とかって言葉を知らんのか!?
〝これを使えば検問なんてあっさり抜けられる〟……なんて、自信満々ニッコニコと言うもんだから、お嬢どころかアスランまで呆れてるじゃねぇか。……いや、アスランの方は興味津々って感じだな。変身の魔道具って点がツボったのか? ……効果を見たいがためにジュリアンに同意するぐらいはやりかねんか? ……さすがにそこまで軽率な真似はせんか。
「万一バレても、僕がごり押ししたって言えば咎められる事は無いよ」
「……そうまでして外に出たいのかよ?」
「正直、それもあるけどね。それより……王子たる僕の身を危険に曝すよりも、この状況下で王子たる僕だけがのうのうと安全圏に引き籠もっている事の方が拙いんだよ。少なくとも王家としてはね」
〝だったら全員で温和しくしてりゃいいじゃねぇか〟――と言いたくなるのを我慢して、せめて騎士か警備員の幾人かに同行を頼めないか打診したんだが、
「僕らの外出――脱出ではないよ?――を知っていたというだけで、責任を追及される事になるからね。教えない方が良いんだよ」
あー……そうだったよな。
ジュリアンってばゲームの本編でも、時偶こういった無茶をやらかしてたよな。ユーザーの間じゃ〝暴発〟とか〝暴走〟とか呼ばれてて、それなりに有名になってたわ。
……しゃあねぇ。肚を括るしか無ぇか。
もうこうなった以上は、ありったけの面子を動員するのが最善手だろうな。