第六十八章 卒業祭~楽日~ 3.「大エド捜索網」(その2)
~Side ネモ~
テロリストにモラルを問うような真似をしても始まらんと思うけどな。
ただまぁ、大衆操作という事を考える場合、共感や支持を得にくい手法は悪手でしかない。……テロリストがそれを理解しているかどうかは知らんがな。……ふむ。
「考え過ぎ――って事ぁ無ぇか? どっちかってぇと、リーベックとかいうオッサンが怨みを買ってて、ガキを攫うのに創立祭の混雑が都合が好かった……って方があり得ると思うぞ?」
「さっきも言ったがリーベック男爵家は、中道中庸を絵に描いたような立場を墨守している事で有名だ。男爵個人も他人から怨みを買うような人柄じゃない」
単なる怨恨とは考えにくいわけか……まぁいい。動機が何だろうが、こっちのやる事ぁ変わらん。
「動機についての詮索は後でいい。今は子供がいそうな場所を探すのが先だ」
「……心当たりでもあるのか?」
……〝ある〟と素直に言えんのが面倒だな。
「生憎と心当たりなんざ無いから、単純に消去法で考えてみるぞ。
「まずは空き教室に潜り込んで眠っちまったという可能性だが……これは潰されたみたいだから除外する。次は誰かに蹤いて行った可能性だが……子供が一人でいるのを危ぶんで、親戚か知り合いが保護したってんなら、そのうち親に連絡がある筈だ。営利誘拐の場合も同様に、犯人からの接触がある筈だから、それを待つしか無い。……どっちの場合も学生の出る幕は無い。……ここまではいいな?」
そう念を押すと、全員が神妙な表情で頷いた。よしよし、聞き分けの良い子は先生からも褒められるぞ。
他にゲームであった展開は……
「問題は学園の外に出ちまってた場合だ。迷子として保護されてるんなら、衛兵詰め所とかに問い合わせれば判る筈だ。親だってそれくらいの事はしてるだろう。それで進展が無いって事は、単なる迷子の線は薄いだろう。
「ただ……悪党に身包み剥がれて放り出された場合、止ん事無き身分のお坊ちゃまだと気付かれずに、孤児院に連れて行かれた……なんて可能性もある」
――そう言ってやると、班員どもは意表を衝かれたようだ。……まぁなぁ、これって結構珍しい……隠しルートみたいなもんだった筈だ。孤児院でポカンとしてる顔のスチルが貴重だってんで、前世の妹が嬉々として回収してたっけな。
「あとは……正直言って口にするのも嫌なんだが、何かの犯罪に巻き込まれた場合だな」
ゲームじゃ複数のパターンがあったんだよな。フラグも手懸かりもそれぞれ違っていたから、完全攻略は至難の業だと、前世の妹がぼやいてたっけな。
「はぁ……不幸中の幸いと言っていいのか、子供が学園外に迷い出たのが偶然だとしたら、計画的犯行の線は薄い筈だ。……って事は、子供の姿が目撃されてる可能性は高い。数を恃んでの訊き込みしか無ぇだろうが……」
「……何か懸念でもあるのか?」
「あぁ。大騒ぎになった場合、犯人が子供の口を封じて逃げ出す虞がある」
そう言ってやると、班員どもの表情が俄に厳しいものになったんだが……ゲームでもそういうバッドエンドがあったからなぁ。鬱展開に批判の声が上がってた。
……そのルートを進めときゃ、ルート分岐のヒントぐらい判ったんだろうが……
〝スチル回収が無いから進めなかった〟
……なんて、澄ました顔して言いやがって……あ・の・腐妹がぁ~~~っっ!!
はぁ……仕方が無ぇ。
「おぃマヴェル、いなくなったって子供の人相書きは手に入るのか?」
似顔絵がありゃベストだが、特徴の箇条書きでも無いよりはマシだ。
「あ、あぁ……一応訊いてきたが……」
「探しに行くつもりかい?」
「だったら僕たちも……」
「お前らは学園内でお留守番――だ」
「「「「「え~?」」」」」
「えー……じゃねぇ! 土地鑑の欠片も無ぇくせに、何出しゃばるつもりでいやがんだ!」
足手纏いは温和しく、学園で情報の取り纏めでもやってろ――と、説教して納得させた……つもりでいたんだが……