第六十八章 卒業祭~楽日~ 2.「大エド捜索網」(その1)
~Side ネモ~
いや、公式には何かも少しマトモな名前だったように思うんだが、正直そっちの方は憶えてねぇ。ユーザー命名の「大エド捜索網」って名前が、遍く罷り通っていたからな。
一言で云うと迷子捜しのイベントなんだが……これが結構な曲者イベントで、失敗したやつもかなりいたらしい。
第一に、これはランダムに発生するゲリライベントで、何時、何処で、誰のルートに発生するのかが確定していなかったんだ。ユーザーによっては、全く遭遇しないままにエンディングを迎える事だって多かった。
何かのフラグだかトリガーだかがあるんだろうとは言われてたが、確定されていなかったんだよな……少なくとも、俺が生きていた間は。
で……このエドウィンって坊主が消えちまう理由は幾つかあって、注意深く探せば現場に手懸かりも見つかるんだが……最大の難点は、これが制限時間ありのクエストだって事なんだよな。ゲームだとタイムリミットは十二時間で、その時間内に坊主を見つけ出せなかったらクエスト失敗になる。坊主はそのまま行方不明か……最悪は屍体で見つかるっていうバッドエンドだった。
現場の手懸かり自体も時間経過で消えちまうから、初動が何より重要になる。なのに、想定される「現場」が学園内外の多岐に亘ってるもんだから、外れを掴んでモタモタしてると肝心の手懸かりが消えちまう。もうそうなると、闇雲にローラー作戦で訊き込みを続けるぐらいしか手が無くて、失敗に終わる事がほとんどだった。
ユーザーの間で言われてた最適解は、複数で手分けして捜索し、当たりを引いたら合流して、後は勢いで畳み掛ける……ってのが定番化してたっけな。
ただ……手分けも何も、主役組に学外での訊き込みなんかさせられんしなぁ……
エドの坊主が学園内にいるケースは、空き教室に潜り込んで寝てる場合しか無かった筈だ。その可能性は――不本意ながら俺のせいで――潰されてるみたいだから、こっちを任せるって手は使えん。
他に、知り合いに声をかけられて蹤いてって、その家でのんびり寛いでる……ってケースもあったな。事件性が無いなら、保護した相手からそのうち連絡があるだろうから、そっちの対応を任せるか?
誘い出したのが敵対派の貴族だったりしたら、不幸な結果になるんじゃないか……って予測はユーザーの間でも取り沙汰されてたが、確かそういった展開は報告されてなかった筈だ。まぁ、あまりゲームの展開に囚われるのも拙いから、念のために確認しておく必要はあるか。
「いや、ネモの懸念も解るが、リーベック男爵は怨みを買うような人柄じゃない。派閥的にも面倒な関わりは無かった筈だ」
てぇと……怨恨じゃなくて営利目的の犯罪か、もしくは何かのトラブルに巻き込まれたか――だな。はぁ……一番厄介な可能性が残ったわけかよ。
正直言って面倒でしかないんだが……ゲームという形でとは言え、或る程度の情報を知っちまってるからなぁ。知らんぷりして不幸な結果になっても寝覚めが悪いし……何より、今の俺は冒険者ギルドの職員だ。アルバイトの毛の生えたようなもんじゃあるが、黙殺ってのは職業倫理に反するだろう。
しゃあねぇ……主役組は適当な理由を付けて学園内に押し込めて、俺は……一旦ギルドに行って、その指示を仰ぐか。
あぁ面倒臭ぇ……と思っていたら、その思いが顔色に出ていたのか、コンラートのやつがおかしな事を言い出した。
「……ネモも気付いたようだな。そう、問題は――これが反・王家派の陰謀だった場合だ」
………………は? …………何言ってやがんだ?
「ネモが以前に指摘していただろう 生徒を無差別に殺傷する事で、王家への批判を煽るという陰謀。その可能性が少しでもある以上、対応するのも難しくなる」
「……ネモさんの表情が曇っていたのは、そういう理由でしたのね」
「俺は単に面倒なだけだと思っていた。……見縊っていて悪かったな」
いや……そんな事ぁちっとも考えちゃいねぇんだが……ここは話を合わせとくか。
あとエル、お前は俺の真の理解者だな(笑)。
ただなぁ……ゲームにゃ反王室派の関与なんてルートは無かったんだよなぁ……
ゲームとリアルを同一視するのは良くねぇんだが、あまり見当違いの方向に暴走された挙げ句、迷子を回収できなくなんのも寝覚めが悪い。ここはコンラートの見解を確かめておくか。
「おぃマヴェル、お前はどう考えてんだ? 反王室派の犯行って線はあり得るのか?」
「……正直言って迷っている。幾ら反王室派でも、無辜の子供を手に掛けるような没義道な真似をするかどうか……」