第六十七章 卒業祭~中日~ 8.学園対決! 偶然と必然の審判(その2)
~Side ネモ~
馬鹿の相手は面倒だが、こういう解り易い提案は嫌いじゃない。そっちがそこまで言うんなら、俺も魔導学園の名に懸けて受けてやろうじゃないか。
――と、指をポキポキ鳴らしてアップを始めたら、
「い、いや……そうではなくて……遊戯での試合を申し込む!」
……なんだよ、拍子抜けさせやがって。
騎士のタマゴなんだから、もっと単純明快直截的にけりを付けた方が早かぁねぇか?
「……荒ぶるなネモ。仮にも魔導学園の卒業祭だと言うのに、無益な波風を立てるのは控えろ」
「いや……仮にも騎士学園の生徒が、〝学園の名に懸けて〟って言ってんだぞ? 騎士らしい方法で決着を望んでいると考えるのが妥当だろうが」
「ネモ君の騎士観がどういうものなのか、いつかじっくり聴いてみたくなるね……」
なぜか遠い目をしたジュリアンを横目で不思議そうに見ていたエルが、
「……ネモ、『騎士』というのは『戦士』のようなものか?」
――なんて訊いてきたもんだから、俺は自分の理解する範囲で答えてやったとも。
「まぁ、大凡で言えば同じ括りだな」
文化的・民族的な違いはあるにせよ、軍人階級という点では同じだろう。
「……俺の知っている戦士が〝その名に懸けて戦う〟と言えば、それは〝剣で〟という事になるんだが?」
「そうだよな?」
――ほら見ろ。
純粋な第三者であるエルもこう言ってるじゃねぇか。やっぱり簡素簡潔明瞭な方法で、最終的解決に至るべきじゃ……
「待て待て待て待て待てっ!」
「落ち着いて下さいなネモさん。仮にも魔導学園の生徒である私たちが拳で決着を付けるというのは、学園の趣旨から言っても宜しくありませんわ」
むぅ……そう言われりゃそうか。
一応俺たちは魔術師のタマゴ、インテリゲンチャーのホワイトカラーって事になる。あまり脳筋的な解決に走るのも考えものか。しかし――
「喧k……言いがか……決着を付けようって言ってきたのは騎士学園だぞ? 俺はそいつらの希望に沿うであろう決着法を提案しただけだが?」
そう言ってやると、お嬢たちの視線は今度は騎士学園の方に向いた。まるで〝そっちのターンだ〟って言うかのように。
その意を酌んだのか、さっきとは別のやつが前に進み出て言う事にゃ、
「すまない。こちらが言葉足らずだったようだ。我々としては、ここは『卓上遊戯研究会』という事にも鑑みて、ゲームでの決着を希望したい」
まぁ、そりゃ構わんが……今直ぐでいいのか? そっちはこのゲームは初めてだろう? 慣れるための時間が必要じゃないのかと言ってやったら、
「ふん! そんな斟酌は無用だ!」
「ユージーン様は【軍師】のジョブを授かっておいでなんだ。お前らの小細工なんかお見通しだ!」
――本人じゃなく、後の取り巻きたちが気勢を上げやがった。
視線で本人に確認を求めると、苦笑いを浮かべて頷いた。……つまり、そういう事だと考えていいんだな?
俺としちゃあ後日の再戦で引き分けか惜敗に持ち込んでやりゃあ、跳ねっ返りどもも温和しくなると思ってたんだが……そうかい、完全決着がお望みかい。
けどな……解ってんのか?
そっちが【軍師】のジョブで参戦するってんなら、俺がスキルを使ったとしても、文句は言わんって事だよな? ――【眼力】で駒を透視したり、【他心通】で考えを読み取ったりしても?
本人がジョブをカミングアウトしたってんならともかく、ネタをバラしたのは後の取り巻きどもだ。つまり――俺にスキルを明かす義務は無いよな? ジュリアンやコンラートがバラすのを咎める事はできんが、やつらが俺のスキルについて知らぬ存ぜぬを決め込んだとしても、こりゃ俺のせいじゃねぇよなぁ?
幸か不幸か、俺の【眼力】はユニークスキルのせいか、それとも【魔力操作】を鍛えたのが功を奏したのか、魔力の放出はごく小さい。そっちで露見する心配は無いって事だ。こりゃヴィクにも確認してもらったから確かなもんだ。
【他心通】も――悪神様お薦めのスキルだけあって――魔力の隠蔽や擬装はバッチリだしな。これも気付かれる事はまず無いだろうし……気付かれたところで非難される謂われは無いよな。何せそっちもジョブを使うってんだから。
――てな感じで対局を始めたんだが……【眼力】を使うまでも無かったな。
先方の希望で「軍人将棋」の対局にしたんだが……憖チェットに馴染んでたせいで、どうしてもその定跡に頼らずにはいられんようだな。
だがな、こちとら前世で散々プレイしてきたんだ。将棋天狗やチェス天狗のあしらい方だって心得てらぁ。全軍躍動で攻めかかってるつもりだろうが、そのせいで地雷の位置が丸見えだぜ? こっちは動かしてない駒が複数あるから、どれが地雷なのか判らんだろう。駒の種類が判らないように戦術を組み立てる――って事が解ってねぇようだな? こりゃ小細工でも策でも何でもねぇ。基本的な戦術ってやつだ。
お生憎だが、ジョブだけが頼りの素人に負けてやれるほど、俺も優しくはねぇんでな。
・・・・・・・・
結局、年季の違いってやつで俺が圧勝して終わったんだが……このままじゃ遺恨が残りかねんと危惧したのか、最終的には普通のチェットも持ち出して、騎士学園にも花を持たせて終わった。騎士学園の連中も、内心はどうあれ表向きは引き分けっぽい演出で終わったんだ。文句を言って来る事は無ぇだろう。部長さんもコンラートもご苦労なこった。




