幕 間 とある人物の感興
~Side ???~
〝武器や武術に興味のあるお前に打って付けの仕事がある〟――などと、父上や兄上に言い包められて、武闘会の道場対抗戦の観覧……などという半端仕事を押し付けられた時には腹が立ったが……その対抗戦の目玉が、彼の「剛剣」アレンと「名人」イズメイルの一騎打ちだと聞かされて俄然乗り気になった。……なのに、今度はそのイズメイル師が怪我をして出場できなくなり、代わって弟の通う「魔導学園」の生徒が出場すると聞いた時には頭を抱えた。
「騎士学園」の生徒ならまだしも、選りに選って「魔導学園」の生徒とは……弟の通う学園のレベルが判るだけでも儲けものだと諦めていたんだが……冗談じゃない。
――何で「魔導」学園にあんな凄腕がいるんだよ。
「魔導学園」っていうのは、その名のとおり「魔法」を教えるところだろう?
「大陸七剣」の一人を相手取って戦う技を、教えたりするところじゃないだろう?
学園の生徒じゃなくて、イズメイル道場の関係者が参加したのかと思ったが、試合の前後に弟やコンラート、レンフォール嬢などとも親しげに話していたようだし……学園の生徒というのは間違い無いようだ。
……いや……「魔導学園」の生徒が騎士団そこのけの武技を揮うのが間違っている……じゃなくて、あんな凄腕が「騎士学園」の所属でないのが間違っているんだ。父上に強談判してでも引き抜かないと……あれ?
……そもそも、彼は何で「魔導学園」に入学したんだ? 「騎士学園」じゃなくて?
……何か理由があるんだろうか。
それが判るまでは、下手な動きはしない方が良いかもな。
……そう言えば……彼の戦いぶりには最初からおかしなところがあったな。何か相手が早々に戦意を失ったように見えたんだが……
威圧系のスキルか何かを使ったんだろうか?
しかし――武闘会ではその手のスキルの使用は禁じられているし、実際に封じられてもいる筈なんだが……?
……まぁ、前座の雑魚どもの事はどうでもいい。凄かったのは、「剛剣」アレンとの一騎打ちだ。
あの少年――少年だよな?――が持ち出したのは、俺から見ても奇妙な得物だった。一見するとフレイルというやつに似ているんだが……
まず、長さが違った。
普通のフレイルだと身の丈を越えるような長いものも珍しくないんだが、彼が持ち出したのはそれよりずっと短かった。
短い分だけ間合いは近くなるんだが、一方で短い分だけ取り回しはし易いみたいだ。彼はその棒を変幻自在に振り回していた。……まさか、棒を使ってアレンの手首を極めようとするとは……。あれはただ単に短いんじゃなくて、接近戦にも対応できる事を考慮して、あの長さになったと考えるべきだ。……つまり、あれは普通のフレイルとは、技術的にも一線を画すもの――そう考えるべきなんだろう。
違うと言えば、棒に繋がっている部分も違っていた。
普通のフレイルだと、短い棍棒を短めの鎖で長い棒に繋げているんだが……彼が持ち出した異形のフレイルでは、長めの鎖に分銅が付いていた。あれは打撃にも使えそうだが、寧ろ敵を絡め捕るためのものじゃないのか? 実際、アレンの足を絡め捕るかのように、下段から地を這うように鎖分銅を振り回しての攻撃を多用していたし。……アレンもやりにくそうだったな。
普通のフレイルなら、短い棒の部分を打ち払って打撃を防ぐ事もできるんだろうけど、あの「フレイル」はなぁ……下手に鎖の部分を打ち払おうとしたら、そのまま剣に絡み付きそうだし……それを考えると、アレンの技倆も凄まじいな。
「剛剣」アレンの必殺の打撃を軽やかに受け流したあの少年も少年だが、変幻自在の「フレイル」を危なげ無く捌いていたアレンの方も、ただの力押しではない技の冴えを見せてくれた。観客全員が声を上げるのも忘れて、勝負の行方を息を呑んで見つめていた。
……なのに……あのクソ貴族のド畜生めが……下らん見栄で名勝負に水を注しやがって……仮にも王族が観覧してるって事を忘れてるんじゃないのか?
ムカっ腹が立ったから、あのバカ貴族の名前は手帳に控えておいた。どうにかして後で締め上げてやろうと思っていたんだが……勝負の方は思ったより簡単にけりが付いた。
続いて出てきた次鋒の少年が、これまた常人離れした技の冴えを見せ付けて、あっさりと大将首を獲ってのけた……
先鋒も次鋒も、本当に「魔導学園」の生徒なのか?
……今年の魔導学園は、一体どうしたっていうんだ?