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第六十七章 卒業祭~中日~ 5.チェス型ゲーム新作攻勢(その1)

 ~Side ネモ~


 そんな無用なイザコザを引き起こしたコンラートのやつから、〝少し付き合え〟なんて言われたんだが……素直に(うなず)けるわけが無ぇだろう。

 疑いの気持ちを目に籠めてジト見してやったら、少し腰が引けた様子で、「卓上遊戯研究会」の発表を見に行きたいから付き合ってくれと言い直したんだが……


「卓上遊戯研究会? 何だそりゃ?」


 名前から察するに、クラブ活動のようなものかと思ったが、どうやらそのとおりらしい。前世と同じように魔導学園でもクラブ活動に相当するものはあるんだが、それは中等部からで、初等部生は――正式には――参加できないらしい。まぁ、時々お邪魔するぐらいなら、お()(こぼ)しはしてもらえるみたいだが。

 で――コンラートの言う「卓上遊戯研究会」ってのもその一つなんだが、


「前にネモから教わったチェット(チェス)(もど)きがあったろう。あれを伝えたのが『卓上遊戯研究会』だ」

「あー……そういう事かよ」


 冬季野外実習の帰り道、チェット(チェス)天狗の騎士学園に一泡吹かせたいからって、ゲームの相談を持ちかけられたんだよな。予測不能の要素を盛り込んだゲームは無いかと訊かれて俺が思い出したのが、前世で「軍人将棋」、または「行軍将棋」と呼ばれていたゲームの事だった。

 これは、裏返して正体を判らなくした駒で指す将棋の変種で、駒も通常の将棋とは違ってる――元帥とかスパイとか工兵とか地雷とか、な。裏返して伏せるんじゃなくて、立てた状態でプレイしてもいいんだが、倒れ易いのが欠点だな。こっちだと駒の配置を憶えたりメモる必要が無いのが利点だが、下手するとドミノ倒しみたいに倒れちまって、駒の配置がモロバレになる。一長一短ってとこだったな。

 敵味方とも駒の正体が判らないままに指すため、彼我の駒が()()った時の勝敗は、第三者たる審判役に委ねる事になる。()()った時に互いの駒を見せ合う事にして審判役を外してもいいんだが、それだと駒の種類が判っちまって面白くない。駒の動きや勝敗から伏せた駒の種類を見破るのが、軍人将棋の(だい)醐味(ごみ)だからな。前世でも審判役を入れた三人でプレイする事が多かった。


 こっちで普及している普通のチェット(チェス)とは駒も盤も違うんで、コンラートの意向に沿うかどうか判らなかった。だから念のために、普通の盤と駒を使ってできる変則チェスも幾つか教えておいた。前世じゃ色んなものがあったんだが、こっちじゃそういった変則チェットは知られてないみたいだったからな。

 駒の初期配置が違うとか、駒の組成が両軍で違うとか、イレギュラーな動きをする駒を追加するとか、盤面の端に来た駒が()ね返るとか、どの駒を動かすかは骰子(さいころ)で決まるとか、持ち駒ルールを追加するとか……()くも考えたり――ってぐらいに色々あった。中には「チェス対将棋」なんて豪儀なものもあったっけな。


 その中で、俺がコンラートに入れ知恵したのは、


 「クレージーハウス」:持ち駒ルールを追加したチェス。


 「ベイルート・チェス」:駒の一つに密かに「爆弾」を仕掛けておき、自軍の駒を動かす代わりにそれを爆発させる事ができる。ちなみに前世の俺たちは、〝爆発の威力は駒の位階によって変わる〟というローカルルールを追加していた。


 「侍チェス」または「神風チェス」:駒を取ったら取った側の駒も刺し違えて死ぬため、キングで敵駒を取る事ができない。


 「地雷チェス」:正式な名前は知らんが、前世で俺たちが遊んでいた変則チェス。敵陣を除く(ます)()の一つを選んで、開始前に地雷を仕掛ける事ができる。地雷の位置はカードに書いて、それは伏せておく。自軍の駒もその地雷桝に停まったり通過したりすると被雷するので、駒の動きは制限される。ちなみに、地雷爆発後の(ます)はクレーターになって進入できない。

 駒の動きから地雷の位置を読み取るのがゲームの肝になるんだが、下手がやるとバレバレになるんだよな。


 「野戦チェス」:これも正式名称は知らん。開戦前に骰子(さいころ)で「山地」の位置と高さを決める。山地になった(ます)は、駒の種類に(かか)わらず飛び越す事はできず、一桝毎(ひとますごと)の移動になるんだが……山地では行軍速度が落ちるという事で、「低山」に駒を進めた場合は一回、「高山」に駒を進めた場合は二回休みとなる。ただしこの「休み」は、自軍のポーンをその数だけ消費する事で代替できるのがミソだ。

 地形は骰子(さいころ)で決める以外に、最初から地形と(ます)()を描いたシートを盤の上に置いてプレイする事もあった。同じ地形ばかりじゃ飽きるからシートの向きを変えたり、別の地形シートを使ったりもしたな。

 正直言って、ゲームの難易度は地形次第のところがあるから、ゲームの公平性は担保されていない。代わりに素早く戦術を組み立ててて動くのが(だい)醐味(ごみ)なんで、ダラダラ時間をかけないよう、タイムリミットを決めておくのが普通だった。


 これらを教えてやった時、コンラートのやつは(しばら)く悩んでいたが……


「結局どれを採用したんだ?」

「あぁ。向こうも悩んでいたが、取り敢えず全部試してみると言っていた」


 ふむ……入れ知恵した手前って事もあるし、ちょいと覗いてみる程度の義理はあるか。


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― 新着の感想 ―
チェスではなくチェストにごわす
コンラートは将来部下の企画や報告を 横取りする上司になるんだろうな 部下に作らせ一番上の名前を自分の名前だけにして 会社に提出するのはよくされたけ
コンラート、おまえ前回影響がどうのこうの言っておいて、そんな影響ありそうなことやっちゃったの?バカなの……?絶対波紋がある!!
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