第六十七章 卒業祭~中日~ 4.卒業研究所感(その2)
~Side ネモ~
あっさり手の平を返す変わり身の術は大したもんだが……何言ってんだお嬢? 俺は田舎の貧乏漁師の小倅で、押しも押されもせぬモブの身だぞ?
(「この期に及んで、まだそんな事を言ってるのか……」)
(「或る意味尊敬できるほどに揺るがないね、ネモ君は」)
……後で主役どもが何か言ってるような気がするが……どうせ大した事じゃねぇだろう。……てか、本来背景でガヤつくのは、モブである俺の役目だぞ? お前ら主役は主役らしく、舞台の真ん中でスポットライトを浴びやがれってんだ。
「無事平穏に繁栄を続ける王都……と言えば聞こえは良いですけれど、裏返せばそれは、変化変革に乏しいという事でもありますの。
「そんな王都にネモさんが、革命とも言うべき調理法を持ち込んだら、目敏い商人が放って置くわけがありませんわ」
「おぃお嬢……固豆のアレは革命ってほどじゃ……」
「えぇ。固豆については、アレは間が悪かったとしか言えませんわね。広く国民に開かれた会場、それまで重視もされず安く取り引きされていた固豆の新調理法、それを――現物も材料も引っ括めて――出し惜しむ事無く振る舞う屋台……商人でなくとも気になりますわ。目端の利く者が買い溜め・買い占めに走ったのも、無理からぬ事と言えますわね」
――そらみろ。俺が非難される謂われは無ぇじゃねぇか。大体あの発表だって、ナイジェルの屋台についちゃ掘り下げずに、兵糧の入手計画の甘さを追及してただろうが。
「あれはねぇ……学園側も能く、あんな際どい発表を許したもんだと思うよ? ネモ君たちの事を別にしても、異変の震源地が他ならぬ魔導学園だったのは事実だし」
「敢えて発表させる事で、学園側のスタンスを示したのかもしれないね」
アスランのコメントにジュリアンが応じて、コンラートのやつも頷いてるが……俺としちゃあもう少し深い狙いがあったんじゃねぇかと疑ってる。
……魔導学園の生徒は、ただ安くて美味い料理を提供するべく工夫を凝らしただけ。固豆の取り引きが混乱したのは不可避的だとしても、騎士団が慌てる羽目になったのは、給糧計画の見通しが甘かったせい――って具合に、然り気無く騎士学園の一派をディスってんじゃねぇか……ってのは穿ち過ぎか?
「……どうだろう? 騎士学園だけならともかく、そこまで騎士団を虚仮にするような真似はしないと思うけど……」
「けどな、学園がそういう見通しも無しに、発表を許可したりするもんか?」
「そう言われれば……」
「……いや。騎士団の食糧補給には、財務も口を挟んでいる筈だ。夏の郊外実習の不手際で、財務も大分絞られた筈だが……まだ煩く言う者がいるのかもしれん」
そいつらを炙り出すために、学生の発表を利用したってのか? 魔導学園も大概えげつねぇな。 だとすると、こりゃ騎士団側も納得尽くか?
……後でレクター侯爵にでも訊いてみるか。余計なトラブルは御免だからな。
話が脇に逸れかけたのを、お嬢が咳払いの一つで押し止める。
「話が逸れましたけど……あの件は情報のコントロールができない状況下で、有益な情報を垂れ流したのが失策だったと思います。……王都の商人の目敏さが、ネモさんの計算外であったのだと思いますけど……」
――いやお嬢。目敏さって点じゃ、ゼハン祖父ちゃんだって相当なもんだからな? まぁ、固豆なんてのはあの時見たのが始めてだったから、祖父ちゃんのチェックからも漏れてたわけだが。
「……ともかく、学園のようにコントロール可能な閉鎖状況下でなら、幾ら教えて下さっても構いませんのよ? えぇ、場所さえ弁えてくだされば」
にっこり笑ってそう言うんだが……お嬢、俺の弁当狙いってのが本音だろう?
(「……言っておいでの事はマヴェル様と同じでも、言い方だけで大分違って聞こえるものですね」)
(「しっ! それは言っちゃいけない事だからね、エル」)
……エルの正当な評価に、コンラートのやつが凹んでるみたいだが……ま、良い薬ってやつだろう。
作品違いながらご報告を。
1巻発売中のコミカライズ版『転生者は世間知らず』ですが、電子単行本2巻の発売日に関しまして確認がとれましたのでご報告いたします。
10月17日(金)から先行配信、11月14日(金)から全書店配信となるようです。
どうかよろしくお願いします。