第六十七章 卒業祭~中日~ 1.The Moment Before(その1)
~Side ネモ~
魔導学園の卒業祭は三日間。初日はいわゆる卒業式だが、二日目は中等部の、三日目は高等部の卒業研究の発表に充てられる。この卒業研究の発表・展示を目当てに訪れる客が多いため、式典の方を先に済ませて混雑を緩和しようという目論見もあって、こういうスケジュールになったらしい。
そして、初等部の卒業生は発表の義務が無い。つまり、上級生の卒業発表を手伝う義理も無けりゃ、自分の卒研の参考にするため見学する必要も無い。
早い話が、二日目・三日目をバッくれようとも問題は無いって事になる。
なのに――卒業祭の中日のこの日、俺はいつもどおりの時刻に登校していた。
それは、卒業祭を数日後に控えたある日の事……
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「あ? カルベイン、そりゃ本当の話か?」
「あ、あぁ。慣例としてそうなっているみたいだ」
「マジかよ……」
雑談の中でエリックのやつが何気無く口にした内容は、俺にとっちゃ到底聞き捨てにできないもんだった。卒業祭の目玉の筈の研究発表だが、初等部生にその義務は無いとはな。
……とすると、俺が初等部だけで卒業するってんなら、二日目以降に参加する必要も無いわけだ。初等部生は卒業研究なんかしなくていいんだからな。
(「……進学なんか考えてないって風だよな、ネモは」)
(「まぁ、敢えて進学しなくても、就職先には困らないだろうけど」)
(「国が手放すわけ無いですよね」)
(「中等部進学は既定の方針だろ?」)
(「実際どうなんですか? そこんとこ」)
(「僕の立場上、滅多な事は言えないんだけど……」)
(「その疑問は故無きものではない――とだけ言っておこう」)
(「あー……やっぱり」)
(「少し考えれば解りますよね」)
(「ネモは気付いていないようだぞ?」)
(「いつもながら、それが不思議ですよねぇ……」)
……後の方で何か声がしてるが……ま、俺には関係の無い事だろう。
卒研に不参加と決まったなら、中等部のそれを見学する必要も無いわけで、空いた時間は有効に使うのが賢明ってもんだ。今年はともかく来年以降の卒業祭では、他の連中に交じって店を出すのも良いかもな。少し気が早いかもしれんが、卒業後の針路について考えるのは、幾ら早くても悪い事は無い。
なのに……そんな算段を巡らせていた俺に向かって、エリックのやつが爆弾ネタをぶっ込んできやがった。
「店を出せるのはCクラスとDクラスだけで、AクラスとBクラスは罷り成らん……ってのはどういうわけだ?」
「い、いや、俺が決めたわけじゃないから……」
「あぁネモ、これはC・Dクラスに対する一種の支援措置だ」
「なので、貴族や裕福な者の多いAクラスとBクラスは、遠慮するのが慣例なのですわ」
望まぬ事情でAクラスに在籍させられた、庶民の俺の事はどうしてくれるんだと問い詰めたら、
「だから……〝裕福でない者〟に対する救済措置だと言っただろう」
「蛇素材で潤っているネモ君は対象外とされるんじゃないかな?」
「あと、C・Dクラス生で中等部に進学する者は、ほとんどいないそうだから」
中等部進学を視野に入れている者はともかく、そうでない者は卒業研究とは無縁なわけで、だったら敢えて発表を見る必要も無いって事だろう。俺もそれには同意見だ。……てか、俺もそう考えていたんだが……
「……ネモはどうするんだ? 中等部に進むのか?」
KY代表のエリックのやつがそう直球に訊いてきたんで、針路について改めて考えてみたんだが……どうしたもんかなぁ。
俺としちゃあ地雷原みたいな「プレリュード」の舞台からは、さっさとおさらばしたいのが本音なんだが……弟妹たちがなぁ……
あいつらの魔力量って間違い無く多めだし、学園からの入学通知が来る可能性は高いんだよなぁ。もしもそうなった場合、近場に俺がいた方が何かと好都合だろうから、そうなると俺が中等部にいた方が良いのは確かなんだ。
ま、ネロの「祝福の儀」まではまだ少し時間があるし、俺の卒業もまだ先だ。焦って結論を急ぐ必要も無いか。
なので、エリックのやつにもそう答えたんだが……
「だったら、少し僕らに付き合ってもらえないかな?」