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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第七章 初めての武闘会 8.残響そこかしこ

 ~Side オーベット・イズメイル師範~


 ――この世に神はおらぬのか。


 あの「大陸七剣」の一人、アレン・〝肉切り包丁(クリーヴァー)〟と互角の勝負を演じた少年がいるとの報告を、それも、その少年はレオ・バルトラン殿の学友で、今回我が道場の客分という形で対抗戦に出場してくれたのだという話を末息子から聞かされた時の、私の偽らざる心境だ。

 世紀の名勝負をこの眼で見る事ができなんだとは……このオーベット・イズメイル、一世一代の不覚。なぜにこのタイミングでぎっくり腰など……いや……私がぎっくり腰にならなかったら……そもそもネモ君とやらが出場する事も無かったのか……


 ……理解した。神はいる。少なくとも悪意を持った神が。



・・・・・・・・



 我が身の不運を嘆いてはいたが、(くだん)のネモ少年とアレン殿が見舞いに来てくれたので、差し引きはトントンといったところだろう。


 アレン殿の事は噂に聞いていたが、実際に会ってみてその実力が(かい)()見えた。恐らく私では届くまい。あの大剣を縦横無尽に振り回すなど、一体どれだけの(りょ)(りょく)があるというのか。「肉切り包丁(クリーヴァー)」あるいは「ミートチョッパー」の二つ名は伊達ではあるまい。一発でも喰らえばそれまでだろう。だが、話してみれば気持ちの好い若者で、自分も(かつ)て腰を痛めた事があると言って、その時の治療法などについて知恵を貸してくれた。今のこの身には何よりありがたい。


 そしてネモ君だ。アレン殿と互角に渡り合ったというから、一体どのような猛者なのかと思っていたのだが……十二歳にしては背が高いものの、それ以外はどこにでもいるような少年だった。……そう、その()を除いては。

 あの眼は十二歳の子供が持っていていいような眼ではない。鋭く、力強く、異質で――それでいて禍々(まがまが)しさは感じられない。

 あれは人間の眼ではないだろう。闘神という存在がいるのなら、きっとああいう眼をしているのではないか。そう思わせる眼だった。前髪で隠しているところを見ると、彼もその事に気付いており――そして、それを好ましく思っていないのだろう。その事自体が彼の為人(ひととなり)を暗示している。


 だが――そんな事より何より、彼が(たずさ)えてきた()(もの)だ。アレン殿によって二つに切断されてはいたが、一見してフレイルの一種だと判る。ただし、鎖の部分はフレイルより長く、恐らくは対処も難しいだろうと予想される。ネモ君によればそれは……


()(ぎり)()……? ほぉ……」

「えぇ。遠い異国の言葉で、〝胸の辺りまでの長さの棒〟という意味だそうです。なので本来はもう少し短いんでしょうけど、これは俺……自分が扱い易い長さに(あつら)えてあります」

「そいつぁどこで手に入れたんだ?」

「これ自体は武器屋で作ってもらいました。冒険者ギルドで紹介してもらった店ですけど」


 ……作った? 故郷から(たずさ)えて来たわけではないという事か? まさかこちらに来てから練習したわけではあるまいし……だとすると、故郷で身に着けた技術なのか? なのにその「()(ぎり)()」を持って来なかった?

 ……色々と事情があるようだが、そんな些事(さじ)を追及するなど武人のなすべき事ではない。武人ならば……


「実際に手合わせした者として言わせてもらうが……単にフレイルを振り回してるだけじゃねぇな。棒術だか何だか、そういうのが下地にあるんだな?」

「そうですね。()(ぎり)()の特性だけに頼っていては闘えませんから。飽くまで基本としての杖術があって、その上に()(ぎり)()固有の技術が乗っている感じでしょうか」

「で、その杖術とやらの下には、更に下地としての体術があるんだろ? まさか棒で手首を()められるたぁ思わなかったぜ」

「棒で手首を……? それは一体どういう……?」

「あ~……何てぇか……」

「お見せした方が早いですね」


 ネモ君はそう言って、レオ殿を相手にその技を見せてくれた。アレン殿も、技をかけられているレオ殿も食い入るように見ていたが……無論私とて初めて目にする技術だったとも。


「……アレン殿は()(かわ)せましたな」

(かわ)すってぇか……ヤバいと感じてすぐに突き放して逃げただけですよ、俺は。あそこまで綺麗に()められちゃ外せませんって」


 目の前ではレオ殿が悲鳴を上げているが、きっと得るものが多いだろう。羨ましい事だし、そう思えるようでなくては武人とは言えぬ。


 実り多き一日であった。



 ********



 ~Side ライサンダー学園長~


「……どうしたものですかな……?」


 困惑したような声が上がるが、我々の立場は決まっているだろうに。


「どうするもこうするも、ネモ君が我が魔導学園の学生である事に変わりは無い。騎士団や騎士学園などにくれてやるわけにはいくまいが」


 今日の天覧試合を見てからというもの、騎士団や騎士学園がネモ君を寄越せと騒ぎ立てておる。魔法使いにしておくには勿体無いだと? 何を勝手な事をほざきおるか。ユニークスキル持ちの可能性が強い以上、彼の所属は魔導学園と決まっておる。他のところに渡す事などできるものか。

 何しろユニークスキル無しでさえ、ディオニクスを瞬時に焼き殺したほどの逸材じゃ。その結果、()(らち)な企みをすら潰してのけた事は、既に報告書も渡しておるというのに……それは見ぬふりをしてこの騒ぎか。脳筋どもにネモ君は勿体無いわ。


「騎士団の要求は突っぱねるとして……授業の方はどうしたものかと」


 うん? ネモ君の担任のアーウィン先生か。何か不都合な点でもあると言うのか?


「不都合と言うか……あのネモに格技など教える自信がありません。剣術はともかく、体術は間違い無く私より上です。教える事がありません。本人は【護身術】のスキルだと(とぼ)けるつもりのようですが……あれを『護身』のためだけの術だと言われると……」


 ふむ……授業担当としての意見じゃったか……


「……いっその事、ネモを体術の助手に任命しては……」

「それも問題です。現状ではネモの技術に()いて来れる生徒がおりません。学園全体を見渡しても、体術でネモの相手が務まるのはエルメインくらいでしょう」

「ふむ……」

「更に言わせてもらえば、ネモの【護身術】はかなり異質です。下手をすると、既存の技術体系とは根本的に異なる可能性も……」


 ほほぅ……?


「その一点を(もっ)てしても、ネモ君を騎士学園に渡さぬ理由となるな。うむ……これは少し考えてみねばなるまいよ」

次回からは週二回、火曜と金曜のこの時間に更新します。今後もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 要望なのですが、対抗戦の後日談として、試合を終わらせた貴族について読みたいです。 気絶や降参や大怪我など以外は中断しないルールであり、主人公は武器が壊れても戦意は衰えていないのに、強引に試合…
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