第六十五章 学園対決! 白銀の疾走~団体戦の決闘~ 5.栄光は誰のもとに
~Side ネモ~
お嬢は結局、第三走者を抜かさなかったな。後ろ姿を見られるのを嫌がったというのもあるんだろうが、お嬢に追い付かれた第三走者が、疲れた身体に鞭打ってペースを上げたってのもあるだろう。腰を落とし過ぎて走ったツケで、後半ガタガタになってたのに、お嬢に煽られて死に物狂いになってたからな。あれが〝火事場の馬鹿力〟ってやつか。
……けどなお嬢、相手を煽るためなのかしらんが、第三走者の背後にピッタリ付いて、聞こえよがしに鼻歌を歌う……ってのはどうかと思うぞ? リレーゾーンに入って来た騎士学園の第三走者、目が血走って凄い形相になってたからな。
で、お嬢からのタッチを受けて最終走行に入ったわけだが……既に二周近い差が開いてたからなぁ。タッチして直ぐに向こうの第四走者を追い越して、二周遅れを確定させてやった。……追い抜きざまに横目でチラ見してやったが、絶望的な表情を浮かべてたな。
このままノンビリ滑ってても勝てるだろうだが……俺にも前世現世を合わせて十年近く滑ってきたって自負があるからな。あまりみっともない滑りを見せるわけにもいかん。ここは一つ、先行者の年季ってやつをお目にかけなきゃな。
幸いに、風魔法で空気抵抗を減らす技術はエリックから、【熱交換】で氷温を零下七度に保つコツはお嬢から、それぞれ教えられている。どっちも言い出しっぺは俺なんだが、それを形にしたのはエリックとお嬢の二人だ。俺は黙って完成品の恩恵を受け取るだけ。不労所得と言うか貴族的と言うか……いやぁ、〝貴族と泥棒は三日やったら止められない〟とは能く言ったもんだ。……違ってたかな? まぁ、大した違いは無いだろう。
ともあれ、俺はその二つの恩恵を存分に享受して、のびのびと思いのままに滑って行った。終い方には怒声も歓声も野次すらも聞こえなくなって、「長距離走者○孤独」ってタイトルが頭に浮かんだりもしたけどな。
――ともあれ、だ。騎士学園のガキどもに、格の違いってヤツを叩き込む事はできただろう。うん、〝終わり良ければすべて良し〟ってやつだな。
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~Side ジュリアン~
「……ネモ君はいつもながら容赦が無いね」
「ネモ一人でコースを二周した挙げ句、一周以上のアドバンテージを追加しましたから」
うん……アスラン殿とエルメイン君が、呆れたように疲れたようにコメントしているとおり、ネモ君はえげつないまでの力量差を見せ付けて勝利を飾った。……いや、これはネモ君一人の責任……じゃなくて、〝功績〟ではなく、チーム全員が一丸となってもぎ取った勝利だ。……うん、なぜか〝もぎ取る〟っていう言葉が凄くしっくりくるな。〝もぎ取られた〟相手である騎士学園の容態……じゃなくて、様子を見ていると。
勝利に沸く魔導学園側に対して、騎士学園の方は葬儀の場みたいな沈滞ぶりだ。……幾ら何でも少し遣り過ぎたんじゃないだろうか。
学園の面子が懸かっていたわけだから、惨敗を喫するのは論外だとしても、ここまで徹底的に叩き潰してしまっては、後々の事が心配になる。肉弾戦を旨とする騎士学園が、正にその身体能力の部分で、魔導学園に後れを取ったわけだからなぁ……これ、下手をすると学園だけでなく、各貴族家の名誉とか面子とかに関わってくる。遺恨の種、それも特大の種になるのは目に見えてる。
ネモ君はそこのところ、どう考えてるんだろう。あれで見た目以上に思慮深い彼の事だから、何も考えてないというのは無いと思うんだけど。
……〝考えはしたが、気にしていない〟っていうのはあるかもしれないな。遺恨・怨恨で闇討ちを仕掛けるような者がいたら、力尽くで黙らせる……っていうのはありそうだ。と言うか、実にネモ君らしい。ただ――それだと僕らが困るだけだ。
どうしたものかと悩んでいたら、大人と子供の二人連れが、ネモ君に近寄って行くのが見えた。……あれ? あの二人って……