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第六十五章 学園対決! 白銀の疾走~団体戦の決闘~ 4.零下7度が大切

 ~Side 騎士学園チーム第三走者~


 次鋒のやつは見栄(みえ)を張って直立姿勢を崩さなかったせいで、女子にまで差を広げられるという失態を冒したな。(きょう)()の一つは守れたのかもしれんが、その代わりに別の恥を拾ったんじゃどうしようも無いだろうに……


 悪いがこのオレはそんな事はしない。


 敵の戦術・戦略が優れたものであれば、それを素直に認めて取り入れるのが兵法の常道だ。あの前傾姿勢での滑り方も、勿論取り入れさせてもらう。観察する時間は充分にあったからな。


 ――考えてみれば当たり前の話だ。


 馬を早足で走らせる時に、上体を直立させたりはしない。風の抵抗を小さくするため、前傾姿勢をとるのが常というものだ。まぁ、騎射の場合もあるから、一概にそうとばかり決め付ける事もできないが。

 恐らく魔導学園の連中は、風魔法の修行中にこの事実に気付いたんだろう。あいつらもただ漫然と、魔法の修行をしているわけじゃないらしいな。そこは少しだけ見直した。


 ともあれ、このレースではオレも前傾姿勢を取り入れさせてもらう。風の抵抗を小さくするためには、思い切り深く前傾した方が良い筈だ。この改良型フォームで、魔導学園に留めを刺す!


 ……既に一周以上の差が開いているというのに、ここから挽回するなど言えば、戯言(たわごと)世迷(よま)(ごと)(たぐい)としか思えないだろう。しかし、まさにそこにこそ我々の勝機がある。


 既に相手チームは第四走者の女子が走っており、残るは最終走者だけ。つまり、最後の一人がトラックを二周する必要がある。対して騎士学園は、オレを含めて三人が残っている。余力があるのはこっちの方だ。

 ……恐らくはレースに耐えられる人材がいなかったために、女子の手を借りるしか無かったのだろうが……女子の体力では一周走るのは難しいため、こういった先行逃げ切り型の戦略を立てたんだろう。敵ながら(あっ)()れと言うしか無いが……だからと言って勝負に情けは無用だ。お気の毒だが、勝ちの目はこちらにあるんだよ。


 とりあえず、新型フォームで先を行く女子との差を詰めさせてもらおうか。



 ********



 ~Side ネモ~


 騎士学園チームの第三走者、俺たちの真似をして前傾フォームを取り入れたみたいだが……また、随分と極端なフォームになってるな。

 脚を深く曲げて姿勢を低く保ち、上体なんか前傾を通り越して()(かく)を取ってるじゃねぇか。


 恐らくは空気抵抗を最小にする事を狙ってるんだろうが……上体はあんまり深く曲げ過ぎても、確か空気抵抗はあんまり変わらないんだよな。脚を深く折って姿勢を低くするのは……そりゃ確かに空気抵抗は小さくなるかもしれんが、反面で脚に対する負担が大きくなって疲れるんだよ。疲労そのものは【身体強化】で抑えられるかもしれんが、パフォーマンス自体は落ちてくるからなぁ。

 ()して、お嬢も【身体強化】はそこそこ以上に使えるんだ。あえて尖った姿勢を取るメリットは無いと思うんだがなぁ……


 それに、お嬢のスピードの秘密は【身体強化】にあるんじゃない。


 ――氷結魔法、どうやらものにしたみたいだな。



 ********



 ~Side ドルシラ~


 氷の表面を零下七度に保てだなんて……最初に言われた時には何て無茶振りをと思いましたが、いざ試してみると()く解りますわね。

 (ブレード)の滑りと言いスピードの乗りと言い、違いは(まさ)に圧倒的ですわ。


 ……最初の頃は、(ブレード)の下で融けた水を凍らせてしまって滑れなくなる……なんて失敗も致しましたけど、修行を重ねていくと【魔力操作】が上達して、氷の状態が判るようになったのです。その【魔力操作】を存分に駆使する事で、どうにか氷面を滑りに適した状態に置く事もできるようになりました。

 ……ネモさんの言う〝果汁は凍るがエールは凍らないくらいの温度〟を実現する事もできるようになって、お祖父(じい)様がお喜びでしたわね。……冬に暖房の効いた部屋で飲む、冷やしたエールも(おつ)なものだとおっしゃって。


 ですが――競争という事に(かんが)みると、今度は別の問題が浮かんで来て困りました。あまり速く滑走し過ぎると、氷面の状態管理が追い付かないという問題が持ち上がってきたのです。

 少し滑走の速度を緩めれば大丈夫なのですけど、学園の面目を懸けての大一番に、そんな悠長な事は言っていられませんもの。試験勉強の合間を縫って修行に励み、どうにか実用上問題の無い魔力行使を身に着ける事ができました。これについてはカルベインさんのアドバイスが役に立ちましたわね。

 ……こう言っては何ですけど、カルベインさんは魔力の量こそそれほど大きくありませんのに、魔力の展開速度や切り替えの速さは、学園内でもずば抜けていらっしゃいます。魔力でのごり押しに陥りがちの我が身を顧みれば、羨ましいほどの技巧ですわね。まぁ、カルベインさんにはカルベインさんなりのお悩みがあるのでしょうけど。……ネモさんは〝隣の芝生は綺麗に見える〟とおっしゃってましたわね。いつもながら巧い言い回しをご存じですこと。


 あら……そうこうしているうちに、騎士学園第三走者の背中が見えてきましたわね。どうやら丸々一周分のアドバンテージが追加で戴けたようです。……このまま追い抜いていいものですかしら?

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― 新着の感想 ―
追い抜いたら、お嬢のケツを覗き込む変態騎士が誕生するから、やめたげて笑
お嬢、やめて差し上げてw
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