第六十五章 学園対決! 白銀の疾走~団体戦の決闘~ 2.氷上Go!Go!Go!
~Side 騎士学園チーム第一走者~
――くそっ! 何だあいつは!
態々乗馬服なんかで現れた上に、腰を屈めたみっともない格好で滑ってるくせに! 何であんなに速いんだ!?
〝何やってんだ!〟
〝弛んでるぞ!〟
〝騎士学園の意地を見せないか!〟
――煩せぇっ!! 実際に相手と対峙もしてないくせに……野次馬が勝手な事をほざくなっ!
魔導学園の第一走者……あいつ、間違い無く【身体強化】を使ってるが……それだけじゃない! 何か他にも……あの変な格好以外にも、絶対何か魔法を使ってる! くそっ!
一体どんなインチキを使ってるんだ!? 俺は選ばれた騎士学園の生徒だぞ! 孰れ騎士となって、王家の方々をお守りする筈の男だぞ! 何で魔術師のインチキに後れを取らなきゃならないんだ!!
あぁ……敵の背中がどんどん遠くなって……
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~Side ネモ~
おー……一応先鋒を任せてみたが、KYのくせに中々やるじゃないか、エリックのやつ。キチンと近代スケートの走法ってやつをマスターしてる。後のやつらも同じくらい滑ってくれりゃいいんだが……ま、エリックの真似まではできんだろうな。何せ風魔法を前方に展開して、空気抵抗を抑えるような工夫までしてるんだ。
こっちは乗馬服まで持ち出して、空気抵抗の削減に努めてるっていうのによ。なのに騎士学園の連中ときたら……
「ネモ、あん坊主さ、なすてあっだらおがすな滑り方ばすてるんだ?」
「あ~……こん辺りじゃ滑り靴で駆けっ較とがすねぇから」
【眼力】使って望遠偵察したから解っちゃいたが、あいつらの滑り方って所謂「ダッチロール」なんだよな。両腕は振らずに前に組んだまま。姿勢は背筋を反らし気味にして、片足のアウトエッジで氷上に弧線を描きながら、もう一方の足を後方に伸ばしてバランスを保つっていう。
貴族出身者が大多数を占めるっていうから、優雅さやマナーを重視した滑り方をしてるんだろうが……あんなんでスピード勝負を挑もうってんだから呆れちまうぜ。
まぁ、【身体強化】を使う知恵ぐらいはあったみたいだが、それくらいなら魔導学園にだって使える者はいるんだ。俺みたいな平民出で冒険者を目指すやつらなら、その基礎ぐらいは大抵心得てるし、貴族の中にだって使えるやつは少数だがいる。今滑ってるエリックとかお嬢とかな。
騎士学園チームも、【身体強化】の使い手がいるくらいは予測してただろうが、基礎体力の差で押し切れると思ってたようだな。けど……肝心の滑走技術がアレじゃあなぁ。腰高なもんで空気抵抗は大きいし、腕も振らないからキックの動作も小さいし……スピード勝負にゃとことん向いてねぇわ。
靴だって、こちとらはちゃんとしたスケート靴を履いてるっていうのに、あいつらは靴にエッジを結び付けるって方式だからなぁ。そんなんじゃ安定した滑りは望めんぞ?
……こりゃ、風魔法による空気抵抗の排除は遣り過ぎだったか? きっちり格付けしてやろうとは思ってたが……あんまり敵愾心を募らせてもらっても困るんだが。
あ……騎士学園の選手、焦り過ぎて転びやがった。あれでまた差が付いて……あ~あ、半周近くもビハインドが溜まったじゃねぇか。
こっちは次走者のナイジェルにバトンタッチ――いや、バトンは無いが慣用句としてな? ボディタッチってのは何か違うだろう?――したってのに、向こうの選手はまだ来やしねぇ。……騎士学園のやつら、物凄い形相で睨んでやが……いや、選手以外じゃ興味深そうに眺め……冷静に観察してるやつもいるな。俗に云う〝傍目八目〟ってやつなんだろうが……いや? 選手と仲の悪いやつらもいるみたいだな。無様に転んで負けたのを囃し立ててやがる。貴族家同士の勢力争いもあるんだろうが……騎士学園も一枚岩じゃなさそうだ。
【参考文献】湯田 淳ほか(2009)スピードスケートにおける滑走姿勢の相違が空気抵抗力に及ぼす影響.日本女子体育大学紀要 39:9-15.