第六十五章 学園対決! 白銀の疾走~団体戦の決闘~ 1.限りなく聡明に近い愚者(フール)
~Side 騎士学園チーム第一走者~
懸案となっていた学年末試験も終えた二月最後の光の日、我ら騎士学園選抜チームは魔導学園との長年に亘る啀み合いの決着を付けるため、そして我ら騎士学園の栄光を揺るぎ無いものとするために、ここ大池にまで出向いてきた。
大体、国を護り王家を護るのは、我々騎士家の役目なんだ。それを……ただ偶々近くに居合わせたというだけで、我々の役目を横取りしやがって……
聞けば魔導学園の連中は、サクシルでもジュリアン殿下を危うい目に遭わせたそうじゃないか。我々がお側に控えていれば、そんな危地には近寄らせなかったものを……
ここは何としてもあの魔導学園どもの鼻っ柱を叩き潰して、それを機に殿下にも目を醒まして戴かなくては。ネモとかいう跳ねっ返りがいるようだが……評判倒れの田舎平民など、我ら騎士学園の敵ではないのを証明してやる。
大体、ジュリアン殿下も殿下だ。魔導学園などという胡乱なところへ通わず、我が王立騎士学園にお越しになればいいんだ。兄君のローランド殿下も在学しておられるんだし。
所詮やつらの攻撃魔法なんて、局地戦に影響できるかどうか。戦略を左右するような働きはできない……と、教官殿もおっしゃっていた。此の度の競争で完膚無きまでに叩き潰して、殿下にも目を醒まして戴かなくてはな。そのために、教官殿から必勝の策を授けて戴いてるんだ。
〝魔導学園の学生、別けても貴族出の学生は、遠距離からの魔法攻撃を好む傾向にある。その裏返しで、【身体強化】を使っての近接戦は不得意な者が多い〟
今回は魔法の使用は可とした上で、攻撃や妨害行為は反則という合意を取り付けてある。つまり、連中は事実上魔法を封じられたも同じ。あるとすれば、風魔法で後から後押しさせるくらいだろうが……池を半周するほど魔力が保つものか。
翻って我々は、合意に則って【身体強化】を堂々と使う事ができる。やつらの中に【身体強化】を嗜む者がいたとしても、精々一人か二人だろう。こっちは全員が【身体強化】を使い熟せるんだ。勝負になんかなるものか。我々の勝利は揺るがない。
……そう思っていた。
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~Side ネモ~
おーお、粋がったガキんちょどもが雁首揃えやがって。あれが騎士学園の生徒だってんなら、本物の騎士さんたちも泣きたくなるんじゃねぇか? 少なくとも、バンクロフツ隊長とマクルーア隊長は頭を抱えそうだな。【眼力】を使うまでもなく、力量が足りてねぇのが丸判りだ。注意は散漫だわ、体幹はぶれぶれだわ……前世の祖父ちゃん祖母ちゃんが見たら、薪割り雑巾掛けから遣り直しってレベルだ。
……こんなのを学園の代表として送り込んで来たってのか? 騎士学園の教官たち。……案外裏がありそうだな。まぁいい。俺たちゃ粛々と片を付けるだけだ。
確か見届け人ってのがいる筈だが……あ? ひょっとして、あそこにいる二人がそうなのかって……いや、幾ら何でもそりゃないだろう?
「ところがどっこい。正真正銘、俺たちが見届け人なわけだ」
「んだ」
見届け人として現れたのは、あろう事か冒険者ギルドの職員と、「大陸七剣」の一人・ギドだった。ギルドから見届け人が来たのはまだ解るが、ギドは何で蹤いて来たんだ?
「いや、氷滑り勝負の見届け人つってもよ。そこまで詳しいやつなんざ、ギルドにゃいねぇからな」
「で、北国出身のギドにお出ましを願ったってわけか」
氷滑り自体は知っていても、それを競争にまで仕上げたものを見た事が無いらしい。まぁ、王都じゃ滑れる場所も限られてるし、そこに全員が集まるもんで芋洗い状態だしな。普通なら競争なんかできゃせんわ。今回は騎士学園と魔導学園の勝負って事で、闖入者が出て来ないように仕切ったらしい。……その反動で、見物人が周りを取り巻いてるけどな。ギドも面白がってサングラスまでかけてるし。
しかし……
「騎士学園、選手の中に俺がいるって考えなかったのか?」
ギドの事までは想定外だったとしても、敵選手の動きや素性くらいは探るもんだろうが。俺だって【眼力】の望遠機能で、騎士学園の滑り方とかチェックしたんだぞ? 敵情視察って言葉を知らんのかやつらは?
「さてな。案外承知の上かもしんねぇぜ? 冒険者ギルドたちの目の前でお前を叩きのめして、冒険者ギルドに対してマウントをとろうってのか。或いは負けた時に、見届け人に不正があったと言い掛かりをつけようってのか」
「あー……ガキんちょとは言え貴族なら、それくらいの悪知恵は回るか」
……だとしたら、念のために用意した切り札が役に立つかもしれんな。