第六十四章 学園対決! 白銀の疾走~仕方なき挑戦者~ 6.現代スケート事始め
~Side ネモ~
「いや待てネモ、幾ら何でも先生方を巻き込むのはさすがに拙い」
「あ? 勘違いすんなよマヴェル。何も先生方に滑ってもらおうとか言うんじゃねぇ。自主練習に際して便宜を図ってもらおうってだけじゃねぇか」
どうせ騎士学園のやつらだって、フォームだの何だので教師のアドバイスを受ける筈だ。それとどこが違うってんだ。そもそも競技のアドバイスを受けようってんじゃねぇんだ。天にも地にも恥じるところは無い!
「い、いや……しかし……」
なおもグズグズと煮え切らない態度を取るコンラートのやつを、いっそ物理で説得してやろうかと考えて始めたところで、溜息を吐いたジュリアンのやつが割って入った。
「……態々メイハンド先生のお手を煩わせなくても、高等部の敷地に幾つか、条件に合いそうな場所があった筈だよ。高等部では機密に関わる研究もされているからね」
あぁ、なるほど。
高等部は先端技術開発の場でもあるから、情報の秘匿には気を遣ってるわけだ。そこなら秘密裡に練習できそうな場所もある――と。
……って事は、さっきのアスランの発言は態とだな。
そんな区画があるんじゃないかと狙いを付けて、敢えて教師を巻き込むような発言でジュリアンを追い詰めたか。「腹黒」の本領発揮ってとこだな。
俺を出汁にしたのは気に入らんが……まぁ、結果オーライって事で見逃してやるか。
・・・・・・・・
「で――ネモ君?」
「あぁ、隠しておきたかったものの一つはこれだ」
ジュリアンとコンラートに話を付けさせて、首尾好く練習場の確保に成功したところで、アスランのやつから催促が入った。んじゃまぁ、お披露目といきますかね。
「それは……」
「滑り靴か?」
――ご名答。俺が【収納】から取りだしたのは、所謂スケート靴ってやつだ。
こっちの世界にもスケートはあるんだが、まだ競技と言うより遊びの性格が強く、シューズについても洗練されていない。と言うか、前世のシューズと較べて滑りにくい。
俺はそれが不満だったんで、故郷にいた頃知り合いの鍛冶屋に頼んで、ブレードを作ってもらったんだ。それを靴屋に持ち込んで、前世のものと較べても遜色無い……とまでは言えないにしろ、まぁそこそこに使えるシューズを誂えた。
弟妹たちがそれを欲しがったんで、ゼハン祖父ちゃんに掛け合って資金を出してもらった。ついでにフィギュアスケートの技術を幾つか見せてみたら、祖父ちゃん脈があると踏んだのか、試作のシューズを幾つか俺に送って寄越したのがこれってわけだ。
「……刃の部分が完全に靴と一体化してるんだな」
「あー……こっちで売ってるのは刃の部分だけで、買ったやつが自分の靴に結び付ける形式だったな」
「ネモさんの故郷では違うんですの?」
「……商売人の祖父ちゃんがどっかから聞き込んできてな。試しに作ってみたんで使ってくれ――と、送って寄越したんだよ」
……うん。間違った事は言ってない。〝どっか〟というのが〝俺〟ってだけだ。
「……心なしか刃の形も洗練されたものを感じるな。それに薄い」
それでも前世のスピードスケート用のブレードに較べりゃ厚いんだが……さすがに1ミリってのは無理があったからな。フィギュアスケートのブレードより少し薄い程度にしといた。これでも現世のブレードよりは薄いから、その分スピードも出易いだろ。
「冬季実習での『スキー』とかもそうだけど、ネモ君の故郷は遊技にかける情熱が凄いんだね……」
「……そう言えば、『双六』もそうでしたわね……」
……いかんな。疑いを持たれたか?
「あー……冬場は漁も畑仕事もできないからな。家の中や外で遊ぶ工夫は必要なんだよ」
これ以上余計な疑いを持たせないように、さっさと次に進んじまおう。靴だけに引っ掛かってちゃ、いつまで経っても終わりゃしねぇ。
フォームからウェアまで、改善点は幾らでもあるんだからな。