第六十四章 学園対決! 白銀の疾走~仕方なき挑戦者~ 5.練習場探し
~Side ネモ~
思いがけなく男女混合レースになったが、とりあえずメンバーは決まったわけだ。女子二人に負担はかけられないから、その分は男子が頑張るしか無い。……って言ってもなぁ、エリックは一応貴族の坊ちゃんだし、ナイジェルも持久戦には向いてなさそうだし、俺が二周走る事になるだろうな。エリック一周、ナイジェル一周、クラリス半周、お嬢半周。で――ラストの俺が二周ってとこか。
ま、体力にはそれなりに自信があるし、騎士学園のやつらにだって、そうそう後れは取らんだろ。
出走メンバーが決まったところで、次は作戦会議といくか。
「おぃマヴェル、メンバーが揃ったところで作戦会議といきたいんだが、どこか人目に付かない練習場所はあるか?」
「人目に付かない……練習場所?」
何、鳩が豆鉄砲喰らったような顔してやがる。〝謀は密なるを以て良しとする〟って言葉を知らんのか。
「ネモ君……それはつまり、〝余人には見せたくないものがある〟って事でいいのかな?」
「待てネモ。……お前は学園の中に、騎士学園に通じる者がいると言うつもりか!?」
アスランの言葉尻をとっ捉まえる形で、コンラートのやつが言い掛かりを付けてきやがったが……おぃコンラート、お前こそ現状を見てものを言え。
「氷滑りの練習は屋外でやるしか無ぇだろうが。なのに校庭は隠すものが無い、謂わば丸見えの状態なんだぞ? 間諜なんざ潜り込ませるまでも無ぇ。ちょっと高みにでも登って、【遠見】のスキルでも使えば一発だろうが」
「それは……」
コンラートの馬鹿を正論で黙らせてから、アスランの疑問に答えておく。
「リンドロームの言うとおり、騎士学園にゃ見せたくねぇものが幾つかある。何しろ『魔導』学園の生徒である俺たちが、何でか『騎士』学園のやつらと体力勝負をしようってんだからな。負けないためにはそれ相応の工夫ってやつが必要だろうが」
そう言ってやると、コンラートとエリックは決まり悪そうに黙りやがった。そもそもお前らが挑発に乗って馬鹿な勝負を受けたり、それを学園の面子問題にまで格上げしたりしなきゃ、〝子供同士の微笑ましい競争〟で終わってたんだ。
だがな、こうしてこの俺を巻き込んだ以上、半端な真似なんざさせねぇからな。キッチリと肚ぁ括ってもらうぜ。
「えぇと……人目に付かない場所ならあるし、練習できる場所も幾つかあるけど……両方を兼ね備えてる場所というのは……」
「何だ? お前らの実家に池とか無いのか?」
順繰りにセレブどもの顔を眺めて訊いてみた。フォースに顔を向けた時、後ろでナイジェルとクラリスが息を呑むのが聞こえたが……この際そんな事に構ってられるかってんだ。単なるガキの張り合いだったものを、学園同士の対立に格上げしたのは貴族どもだろうが。その尻は最後まで持ってもらうぜ。
「……全寮制の学園の生徒が、放課後にどこかの屋敷に集まるというのは、却って人目を引くんじゃないかな?」
「……まぁ、そのとおりだが……リンドロームにゃ何か代案があるのか?」
「まぁね。僕らは何しろ『魔導』学園の生徒なんだから、打開策も魔術に頼るのがいいんじゃないかな? 例えば、認識阻害の魔道具――とか」
おぉ……さすが公式設定で、〝ナチュラルに腹黒〟と紹介してあっただけの事はある。こういう悪知恵を出させたらピカ一だな。
(「腹黒って……まぁ、貴族としては褒め言葉なのかもしれないけど……」)
(「例によって、彼は口に出しているのに気付いてないみたいだね……」)
(「僭越ながら……お人好しと誹られるよりは良いのではありませんこと?」)
(「……この国では、お人好しというのは悪口なんですか?」)
(「エルメイン、そういうわけじゃないから誤解するな。レンフォール嬢も面倒な発言は慎んでもらいたい」)
(「あら、御免遊ばせ」)
(「「………………」」)
後ろの方が何か騒がしいが……どうせ大した事じゃないだろう。それより「認識阻害の魔道具」ってやつの手配を考えなきゃな。
どうせ学園全体の対決って構図になってるんだし、魔道具作製のメイハンド先生を巻き込むか。