第六十四章 学園対決! 白銀の疾走~仕方なき挑戦者~ 4.選手の選定(その3)
~Side ネモ~
レオのやつが思った以上の直線番長で、リンクを回るスケート勝負には使えない事が判明した。軽く毒突きたいところなんだが、本人も心から恐縮してるみたいだし、余計な追及は止めとくか。
お嬢がこんな短期間に氷結の魔法を修得したってのには驚いたが、お蔭でレオの穴は埋める事ができた。……ふと気になったんだが……お嬢が氷結魔法に目覚めるのって魔導学園の、それも初等部に在学中だったか……? そんなイベント無かったような気がするが……まぁ、学園生活に関係しないからって、フレーバーテキストで触れられてるだけって可能性もあるわけだし。そこまで心配する必要は無いだろう。孰れ身に着けるのは確定してるんだし。
……前世の妹が本編攻略中に、〝序盤のうちに氷結魔法を憶えさせとくんだった!〟とか喚いてたような気もするが……きっと気のせいだ、うん。
……気を取り直して……そうするとあと二人ほど面子を選ばにゃならんわけだが……
「おぃマヴェル、メンバーの選定にゃ何か決まり……ってぇか、慣習的な約束事とかはあるのか?」
何しろ騎士学園のやつらが相手だからな。〝貴族以外は人に非ず〟……なんて考えを持ってないとも限らん。〝愚民平民の相手などできるか!〟なんて言い出し……待てよ? もしもそうなら、俺が態々出張る必要も無いんじゃないのか?
「いや、魔導学園が国民に広く門戸を開いている時点でそれは無い。そもそも騎士自体が、平民からの採用も珍しくなくなってきているからな」
そうかよ……しゃあねぇ、肚を括るか。
気を取り直して人選だな。ゲームの主役組で、運動神経の良さそうなやつを引っ張ってくりゃいいんだから……そうなるとDクラスのナイジェルとクラリスか。クラリスも一応はヒロイン枠なんだが、あれで身体能力も結構高かった筈だ。滑れさえすりゃ何とかなるだろ。〝商人の娘だけあって、人の微妙な感情の動きを読む事に長けている〟――って、キャラクターの公式設定にもあったし、案外勝負の駆け引きもできるんじゃないのか?
********
~Side クラリス~
「へ? あたし?」
「……と、俺が?」
「あぁ。我らが魔導学園の代表として、怨み重なる――らしい――騎士学園のやつらを叩きのめしてもらいたい……って事だ」
ジュリアン殿下やマヴェル様を従えて……という感じで現れたネモ君が、突如としてそんな事を言い出したものだから、思わず声が裏返ったのも仕方ないと思う。大体、ジュリアン殿下やマヴェル様っていう止ん事無き方々を差し置いて、何でド平民のあたしとナイジェルが、学園の代表なんて話になるのよ。
まぁ……同じ平民のネモ君が、止ん事無き方々を従えてるのに較べれば、大した事じゃないのかもしれないけど……
一応は番長……じゃなくって班長だからって事らしいんだけど……ネモ君の場合は何か、貫禄ってものが違うのよね。
と・に・か・く――あたしとナイジェルはネモ君みたいな規格外とは違うのよ。学園の代表なんて大それたものになれる筈が……
「いや、それについてはすまないが、自分と殿下は立場上参加できないんだ」
マヴェル様が、本当に申し訳なさそうに、事情を説明してくれた。あと、Bクラスのバルトラン様が参加できない理由についても。
……そういうことなら仕方がないか。幸いと言っていいのか、あたしも素捷さとか身の熟しにはそれなりに自信があるし。けど……不安が無いわけじゃないのよねぇ……
ちょっと不安を覚えていたらネモ君が、
「女子は持久力に不安が残るから半周でいい。と言うか、最低半周は走ってくれ。後は男どもで何とかする」
そう言ってくれたんで、小さな心配の芽も無くなった。……と言うか、退路を断たれたとも言えるんだけど。
まぁ仕方が無いか。ここは学園のためって事で、いっちょ気合いを入れるとしますか!