第六十四章 学園対決! 白銀の疾走~仕方なき挑戦者~ 3.選手の選定(その2)
~Side ネモ~
「悪いが俺は参加できない。……いや、参加しない方が良いと思う」
他の二人を何処から選ぶかって時に、まぁゲームの主役組を選んどきゃ外れは無いだろうと思って、Bクラス屈指の体力馬鹿であるレオを誘ってみたんだが……案に相違して断られた。意外だな。この手の話にゃ食い付くもんだと思ってたんだが。
「……滑るのは苦手なんだよ。察しろ」
冬季実習の雪中行軍で、盛大に滑ってたやつの台詞じゃねぇ……あぁそうか。
「勢いが付き過ぎて曲がりきれずに、コースアウトしちまうパターンか」
「正解……」
確かに直線番長みたいなところはあるからな、こいつ。コースは池を周回する訳だから、下手をすると見物人にも被害が出るか。火属性ってのも何気に不安……うん?
「……お嬢、今更なんだが、お嬢は大丈夫なんだろうな?」
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~Side ドルシラ~
バルトラン様が参加できないというのは意外であり、また残念でもありましたが……そのバルトラン様の顔を見ていたネモさんが、今度は私を振り返っておっしゃいました。
「……お嬢、今更なんだが、お嬢は大丈夫なんだろうな?」
多分、バルトラン様と同じく火属性を持つ私が、氷の上に出て大丈夫なのかと気を揉んでいらっしゃるのでしょうけど……
「本当に今更ですわよね。……けど、ご安心下さいな。ネモさんのアドバイスを受けて開眼した、新たな私の姿をご覧に入れますわ」
火魔法使いに物を凍らせろ――だなんて、常識外れの無茶を言うものだと思っていましたが……ネモさんのアドバイスに従って訓練を続けていたら、【魔力操作】のスキルがレベルアップして、そこから炎の制禦が一気に上達いたしました。
そうして……更なる研鑽を重ねた結果、【熱交換】というスキルを得る事ができたのです!
氷結の魔法はまだまだ拙いものではありますが、それでも水を凍らせるぐらいは朝飯前。湖面を一気に凍らせる事はできませんが、凍り付いた湖面を更にガチガチに冷却するくらいなら問題ありません。来るべき決戦の時には、湖面をカッチンコッチンに凍らせて、その上を軽やかに滑ってお目にかけますわ!
「……いやなお嬢、気分好く気炎を上げてるところ悪いんだが、氷ってのは冷やし過ぎると滑りが悪くなるからな?」
………………はい?
「だからなお嬢、氷が一番滑り易いのは、大体零下七度くらい……果汁は凍るがエールは凍らんくらいの温度なんだよ」
「果汁……エール……」
……そんなものを凍らせようなんて、考えた事もありませんでしたわね……
「それより温度が高くても低くても、氷の滑りが悪くなるから注意しろよ」
「………………」
「あとなお嬢、地べたってのは顔の高さよりも温度が低くなるからな。大体二~三度くらい低くなるから、間違わないように気を付けろよ?」
……って、ネモさんは事も無げにおっしゃるんですけれど…………はぁ、これは【魔力操作】の訓練が一段と捗りそうですわね。