第六十四章 学園対決! 白銀の疾走~仕方なき挑戦者~ 2.選手の選定(その1)
~Side ネモ~
試験間近のこの時期にカチ込みってのも面倒だと思ってたが、どうやら試験明けまで待ってケリを付けるらしい。たかがスケート場の使用権のために、一年間の成績を棒に振ろうって馬鹿はさすがにいなかったか。
騎士学園と魔導学園の代表者で、どちらが先に駆け着くか……で終わるかと思っていたんだが、話はそう単純じゃないらしい。代表者戦なのは確かだが、双方から五人を選出して、スケートのリレーで勝負を決めようって事らしい。……んな生温い事やってないで、拳で片を付けりゃあいいんじゃねぇのか。これだからセレブってやつは。
「それをやると、得てして血で血を洗う抗争に発展する。これは過去の歴史から得られた教訓だと思ってくれ」
あー……コルシカのヴェンデッタみたいになるわけか。或いは「ロミジュリ」のモンタギュー家とキャピュレット家か。……そりゃ、王国としては容認も看過もできんわな。
「で――各チームで池に作られたコースを五周して勝負という事になった。コースの長さは一周五百mになる。誰がどれだけ走るか、その配分は自由だが、各人最低でもコースを半周するのが条件だ。妨害は反則。魔法の使用は――勿論、攻撃的なものでないという条件でだが――認められている」
「ふん……走者の交代はどうするんだ? 襷かバトンでも受け渡すのか?」
「襷……? いや、次走者へのタッチが合図だ。後で問題にならないよう、明瞭に示す必要があるが」
ふむ、ルールについちゃ確り練られてるみたいだな。スケート競技のルールをそのまま流用でもしたか?
ま、それはいいとして……ルール面が問題無いってんなら、残るはメンバーの選定だけか。
「それなんだがネモ、私と殿下は立場上参加できないと思ってくれ」
……ん? 立場上?
「おぃマヴェル、確か騎士学園にゃ、フォースの兄貴ってのが通ってたよな? そいつに何か言われでもしたのか?」
だったら俺一人でカチ込んでやろうかと考えていたら、今度はフォースのやつが割り込んで来た。
「いやネモ君、兄上には〝全く皆目これっぽっちも露ほどもその気は無い〟……と、くれぐれもそう伝えてくれるよう託かっているんだけど」
「――あ? ……能く解らんが……フォースの兄貴も参加しないから、フォースとコンラートも参加するなって事か?」
「そう思ってくれて構わないよ」
なるほど、そういう話なら参加はさせられんな。喧嘩を売られたエリックのやつは参戦決定として、他に運動神経の良さそうなやつは……アスランとエルは駄目だな。雪も知らなかったようなやつに、スケートなんざ無理だろう。黙って首を振ってるしな。
あとは……
「ネモさん、不束ながら私も参加させて戴きたいのですけれど」
「お嬢?」
えーと……お嬢は【身体強化】の魔法を使い熟して、格技の実習じゃロングソードを奔放自在に振り回してるくらいだから……運動能力の点じゃ問題は無いよな? 何ならそこらの男どもより頼りになるし。ただ……
「おぃマヴェル、騎士学園相手にお嬢を出すってのはありなのか?」
〝女の相手などやってられるか!〟とか言い出すんじゃないかと思ってたんだが、別にそんな事は無いらしい。女子供だろうが年寄りだろうが、魔術師と名が付く者は要警戒――ってのがこの国の常識らしい。まぁ、冒険者にも女性は多いしな。中にゃごっついハルバードをぶん回してるのもいるし。
騎士団にも少数だが女性騎士はいて、数が少ないのは単に応募が少ないからで、能力で差別するような事は無いらしい。……その点じゃ前世よりも進んでるんじゃないか?
「まぁとにかくそういう事なら、俺とカルベインとお嬢で三人。残りは他のクラス……から選んでもいいんだろうな?」
「あぁ、問題無い」
上等だ。クラス同士の対決ってんならちと面倒だと思ってたが、
「それで収まらないからこそ、或る意味で話が面倒になったんだ」
「なるほど……?」
要は学園同士の対決になったって事だよな。まぁ、さすがに教師までは巻き込まないみたいだが。