第六十四章 学園対決! 白銀の疾走~仕方なき挑戦者~ 1.積年の火種
~Side ネモ~
週明けの木の日。ついでに言うと学年末試験を一週間後に控えた木の日、いつものように登校したら学園の空気が何だかおかしい。こっちをチラチラ見てはヒソヒソと囁き交わしていやがる。……一体何だってんだ。
教室に入ると、おかしな空気は更に強まっていた。
ジュリアンとコンラートは眉根を寄せて、頭痛を堪えるかのように考え込んでるし、アスランとエルも困ったような表情を浮かべてやがる。お嬢はどこか据わった目でこっちを眺めてくるし、エリックのやつは――
「ネモ! 学園の一大事だ!!」
――日頃のお気楽はどこへやら、険しい表情で詰め寄って来やがる。……一体何だってんだ?
・・・・・・・・
血相変えたエリックから話を聞いてみりゃ……
「……つまり何か? 氷滑り場の優先権を巡って、騎士学園と諍いになったってのか?」
王都の西南西、野外訓練場のもっと先にある池でエリックたちが氷滑りに興じていたら、後からやって来た騎士学園の連中が、数を頼みにエリックたちを追い出したって話だった。
要はガキ同士が遊び場を取り合ってるってだけじゃねぇか。阿呆臭い。
「いやネモ、事はそれほど単純じゃない」
「単純な話にしか思えんが……違うってのか?」
コンラートのやつが眉間に縦皺刻んで補足したところじゃ、事は魔導学園と騎士学園の面子に関わってくるらしい。
……なるほど、確かに舐められっ放しというのはいかん。キッチリ落とし前を付けさせなきゃな。それについちゃ同意するが……これ、ナチュラルに俺の参加が決まってるよな? 騎士学園との抗争に巻き込まれたりするのは願い下げなんだが……こんなイベント、「運命の騎士たち プレリュード」にあったか? 俺の記憶にゃ無いんだが……いや待て、ダウンロード版の課金イベントってのがあったな?
前世の妹のやつが、推しのスチル回収のために購入するかどうか悩んでたんで、俺の金は貸さんぞと言ってやったら諦めてた。……このエピソードがそうだとすると、ゲームの大筋に変化は無い……じゃねぇ。ゲームと現実は違うんだって事を忘れんなよ、俺。
ただまぁ、ゲームの中で魔導学園と騎士学園の抗争なんてネタが無かった事を考えると、そこまで心配する必要は無いかもしれん。何かあったらフォースとコンラートに、始末を押し付……任せりゃいいんだし。
――よし。
「……で、いつカチ込むんだカルベイン?」
「……え?」
何だよ? 身の程知らずのガキどもを、キッチリ躾けてやろうって話じゃねぇのか?
「いや……襲撃とか、そういうんじゃなくて……」
「何だ? あぁ、カチ込みじゃなくって呼び出しの方か。 ……なるほど。〝学園の名誉に賭けて決闘を申し込む〟……とか何とか言ってやりゃあ、お坊ちゃまたちも後には退けんわな。誘き出されて袋の鼠になったところを、心置き無くボコボコにしようってのか。こりゃ巧い手だ」
「いや……そういうのとも少し違って……」
「あ? 何かもっと、俺の知らねぇ巧い手口があるってのか?」
「い、いや……その……」
「何だよ。勿体ぶってないでさっさと教えろ」
こりゃ聞き捨てにできない話だと思って、しどろもどろになったエリックのやつを問い詰めていたら、
「まぁ待て、ネモ」
横からコンラートのやつが割り込んで来た。エリックはホッとしたような表情を浮かべてるが……つまり、この件はコンラートのやつも承知っていうわけだな。コンラートが独断で動く事はまず無いから、フォースもこの件に噛んでるって事だ。お上品な王子様だとばかり思ってたが、魔導学園の名誉のために騎士学園のガキ共をボコろうとは見上げた性根だ。褒めてやる。
「いや……だから、その危険思想を抑えろネモ。騎士学園と決着を付けるのは間違ってないが、その方法はキチンとしたルールに則ったものとなる」
「あー……武闘会の時みてぇな代表者戦か? 集団戦じゃなくって?」
苟も国防を志す者なら、より実戦的な形式に則るべきではないかと思うんだが……コンラートにそう言ってやると、〝子供の教育的に宜しくない〟からだと返された。
……なるほどな。〝汚い遣り口〟を教え込むのは、大人になってからでも間に合うか。
「んじゃ、どういう風にケジメを付けさせるんだ?」
「事の発端が発端だからな。氷滑りで決着を付けようという事になった」
「ほぉ……氷滑りか」
丁度好いと言やぁ丁度好いタイミングなんだよな。