第六十二章 野外実習~移動日:復路~ 2.ゲーム談義再び~異風双六譚~
~Side ジュリアン~
少し困惑させられる事はあったけど、まぁいつもの事だと気にせずに煎湯を口にする。さすがに来客用だけあって、雪道で飲んでも美味しい……って……今気付いたけどネモ君、煎湯を淹れるの上手いな? 仮にも王室御用達クラスの高級品の筈なのに。……普段から僻地寒村の貧民を標榜してるくせに、どこでこういう技術を身に着けたんだろう? 【料理】スキルの恩恵なのかな?
「あぁ、そりゃ厨房の司厨員さんから教わったんだ。こんな高級な葉っぱの扱い方、俺が知ってるわけが無ぇだろう」
いや……それはどうだろう。
ネモ君は【料理】スキルの持ち主なだけでなく、色々な料理にも通暁してるし。……王宮の料理長が舌を巻いてたくらいだしなぁ。
まぁ、そんな少しばかりの困惑も気にならなくなるほど、煎湯とスープは美味しいんだけど……他班からの視線が突き刺さるなぁ……
・・・・・・・・
クラスメイトたちからの凝視の中、どうにか喫茶休憩を乗り切って、再び馬車の住人となる。……この時ほど箱馬車の有難味が、身に沁みた事は無かったな……
馬車の中では全員が〝何でもありませんでした〟という風に会話を再開する……ネモ君とエルメイン君を別にして。
そして、そういう雰囲気の中で話題に上ったのが――
「双六? あの、子供騙しの遊びですか?」
昨夜、カルベイン君たちを交えての双六の一戦で思いがけなく白熱したという話を聞いて、コンラートが訝るように訊ねたんだけど、レンフォール嬢の答えは、
「〝子供騙し〟とは言いにくかったですわね。私をはじめ、カルベインさんやマースさん、クィントンさんも熱中しておいででしたし」
――というものだった。
少し子供っぽいところのあるカルベイン君はともかく、火消し役のマース君やしっかり者のクィントン嬢まで熱中してたのかぁ……ちょっと興味が湧いてくるな。
同様の感想を抱いたらしいアスラン君やエルメイン君、それに勿論コンラートまでが、その「双六」の仔細を問い詰めたんだけど……
「へぇ……ただの着順競争じゃないんだね」
「順位は順位として考慮されるが、それとは別に所持金の多寡も関わってくるのか……」
「しかしネモ、その所持金を得るための手段というのが、博奕紛いの相場勝負というのはどうなんだ? ……まぁ、子供向けでないのは確かなようだが」
「手早くゲームを進めなきゃならんのに、悠長な資産運用なんかやってられるかよ」
「いやまぁ、それは解るんだが……」
「あと、運の要素が恐ろしく大きかったですわね。……正直、神を呪いたくなったくらいに」
「あー……お嬢はゴール目前で〝スタートに戻る〟を喰らってたからなぁ……」
「何だその神罰ゲームは」
……うん……確かに盛り上がりそうな内容だった。一応、父上や兄上にも報告しておこうかな。……家族団欒の場が、殺伐としたものになりそうな予感がするけど。
――と、そんな事を考えるともなく考えていたら、黙って何か思案していた様子のコンラートが、
「……ネモ、そういう多人数向けで運の要素が強いゲームの他に、何か目新しいゲームを知らないか? できればチェットのような対戦型で、或る程度の戦術的思考を必要とするようなものがいいんだが」
何だかおかしな事を言い出したけど……コンラートは何を考えてるんだろう。




