第六十二章 野外実習~移動日:復路~ 1.ティータイム再び
~Side コンラート~
色々と疲れさせられた冬の野外実習を終えての帰路、往きと同じように何も無い場所での休憩とティータイムを言い渡された。まぁ、往復も含めて学園の実習だと考えれば問題無いし、教師陣の性格を考えれば充分にあり得る事態だった。
なので、我々を含めた生徒たちも、それ相応の心構えをしていたのだが……一人、心構えだけで終わらなかったのがネモだった。
「あの……ネモ君……その薪はどこから出て来たのかな?」
「ん? 【収納】の中からだが? ……俺が【収納】スキル持ちだって事、忘れたんじゃあるまいなフォース」
「い、いや、それは決して忘れないけど……」
「往きにはそんな薪、出て来ませんでしたわよね?」
ナイス・クエスチョンだ、レンフォール嬢。私も切実にそこが知りたい。ネモの性格からして、往きに出し惜しみした――とも考えにくいんだが……
「あぁ、入手先なら学園の宿泊所だな。〝これこれこういう次第で、帰りにも炊事実習があると思うんで、少し薪を分けて下さい〟――って率直にお願いしたら、快く譲ってもらえたぞ?」
「「「「「………………」」」」」
呆れてものが言えないと言うか……そういうのは実習としてありなのだろうか?
「必要な時に必要な場所で、適切な相手に頭を下げられるかどうか――ってのも考課のうちなんじゃねぇか? この班だと、俺以外にそれは難しそうだから、代表で俺が頭を下げたんだが?」
……そう言われると返事のしようが無いんだが……まぁ、それはいい……いい事にする。
よくないのは……
「それとネモさん……この……煎湯なのですけど……」
あぁ、こちらも随分と上等のものだな。実家や王宮ではともかく、学園では中々飲めないようなものだが……?
「おぅ。これも厨房の皆さんから戴いたもんだ。〝よかったらこれも持って行け〟――って言われてな。来客用に取っといたもんらしいが、賞味期限が近くなったんで買い替えたらしい。訊かれる前に言っとくと、こっちのスープも厨房からの厚意だな」
そんな事だろうと思ったが……これはさすがに……実習的にどうなんだろうか?
「気にすんな。先生方から言い渡された課題は煎湯を沸かす事で、それ以外の煮炊きについて指示は無い。って事はつまり、煎湯以外のものを飲み食いしたところで、咎められる事は何も無い」
「……そうなのか?」
……いや、丸め込まれるなエルメイン。ネモの言っている事に論理的な誤謬は無いが、どちらかと言うと法廷での駆け引きに近いからな? だから見ろ、先生方も渋い顔をして……苦笑いしていらっしゃるな?
「いや、俺も厨房の職員さんから聞いて驚いたんだがな、何年かに一度は出るらしいぞ、スープの持ち帰り」
「……え?」
「そうなんですの?」
仰天ものの話だが、ネモが訊き込んできたところではそうらしい。
「ただな、詰めが甘いってぇか……馬車の揺れを計算に入れずに鍋みたいなもんで持ち帰ろうとするから、大抵は馬車の中でひっくり返って酷い事になるんだと」
「あー……それは……」
「ありそうな話だね……」
「ま、俺は【収納】持ちだから、そんな心配は無ぇんだがな」
〝マジックバッグに入れておけば大丈夫なんだが、マジックバッグをお持ちのような止ん事無き方々は、朝飯の残りを持ち帰るなんて発想に至らんのだろうな〟――などとネモは揶揄うように言うのだが、実際に思い至らなかったのだから反論のしようも無い。
だが――
「それでなくても、【生活魔法】の【施錠】を蓋にかけとけば、そこまでの大惨事にはならんと思うんだが」
――という意見にはもの申したい。効果の持続時間についてはともかくとして、
「……鍋の蓋みたいに大きくて、しかもただ置いてあるだけのものを【施錠】で確りと固定するのは、相当な手練れじゃないと難しいんじゃないかな」
アスラン様……自分もそう思います。