第六十一章 冬季野外実習~二日目~ 11.キャンプハウス:娯楽室
~Side レスリー・クィントン~
〝ラウンジに何かゲームが無いか見てくる〟――と行って出て行ったカルベイン君は手ぶらで戻って来ましたが、ゲーム以上に価値ある方を連れて来てくれました。麗しのドルシラ様――と、ネモ君――を案内して来てくれたのです。
「よぉ、何かゲームが足りてねぇそうだな?」
あぁ、私たちの苦況を見かねて態々娯楽室までお越し下さるとは……ドルシラ様はなんとお優しいのでしょうか。
(「いえ……私は何となく、成り行きで蹤いて来ただけなのですけど……」)
ドルシラ様は戸惑われたご様子で何かおっしゃっていますけど、ここにお越し遊ばしたというその事自体が、ドルシラ様のお優しさを物語っています。
「ゲームが足りてねぇとか聞いたんだが、使えそうなもんは何も――半端に残ってるやつとかも無ぇのか?」
……ちょっとネモ君、折角ドルシラ様のお声の余韻に浸ってるんだから、無粋な声で割り込まないでくれる?
「あ、あぁ。ちょっと確認してくる」
ネモ君がジロリと視線を巡らせた結果、エリックがゲーム置き場へ飛んで行ったんだけど……半端に残ってるものとかでゲームができるもんなの?
「そりゃ、本来のゲームは難しいだろうけどな、あればあったで何かできるもんなんだ。その辺は創意工夫ってやつなんだが……」
〝良いとこの坊ちゃん嬢ちゃんじゃ、そんな涙ぐましい工夫とは無縁だったか〟――なんて言われると少しムカつくんだけど……反論できないのが悔しいわね。
「どんなゲームができるんだ?」
おっとロドニー、ネモ君の当て擦りを気にも留めず、興味津々といった顔で訊くんだな、君は。けど、ナイスなタイミングでの話題転換じゃないの。
「あー……例えばだが、何か輪っかと、纏まった数のペン軸でもあれば、棒抜きのゲームができるな」
「棒抜き?」
「それはどういう遊戯ですの?」
興味を惹かれたご様子のドルシラ様のご下問に答えてネモ君が、〝実物無しに説明するのは難しいんだが〟とか言いながら、身振り手振りを交えて説明したところでは……
「こう……輪っかに束ねた棒を通してな、そいつをグイッと捩ってやる。上下がラッパ状に広がったところでそいつをテーブルに立ててやって、順番に棒を抜いていくわけだ。棒の数が減るほどに不安定になって、最後に輪っかを落とした者が最下位。あとは手持ちの棒の本数で順位が決まるわけだな」
ルールを追加できて、例えば骰子の目の数だけ抜くとか、棒ごとに点数を決めておくとか、手持ちの棒を支払ってパスする事ができるとか……色々と工夫ができるらしい。……ここでは無理でも、寮に帰ったらできそうな気がするわね。ロドニーも何だか頷いてるし。
――そんな事を話していたら、ゲームの入っていた箱を抱えてエリックが戻って来た。
「お待たせ……やっぱりこんなものしか残ってなかった」
「どら……ほほぉ、結構使えそうなもんが残ってるじゃねぇか」
〝使えそうなもの〟って……骰子が一つ、カードゲームのチップっぽいものが多数、不揃いなチェットの駒に、擦り切れて盤面が消えたチェットの盤らしいもの……これで何ができるってのよ?
私たちの疑惑の視線もものかは、ネモ君はチェット盤を裏返すと、乱暴な筆致で曲線――途中に幾つか分岐のようなものがある――を書き殴った。
次いでそれを等間隔に区切っていき、目盛りの幾つかに印を付けた。
何処からともなく――って【収納】のスキルよね。羨ましい――ノートを取り出すと、ページを破り取って小さなカードを数枚拵えた。
「……ネモさん、ひょっとしてそれは、双六ですの?」
「お、鋭いなお嬢。盤と駒と骰子、ついでにチップまであるんだから、一つ即席の双六を拵えようとか思ってな」
「……その紙切れは何なの? ネモ君」
双六なら私も子供の時に遊んだ事はあるけど、あんな紙切れは使わなかったわよ? そう思ってネモ君に訊ねてみたんだけど、
「あぁ。このカードにな、自分の利益になるイベントとライバルの不利益になるイベントを、それぞれ一つ書いてくれ」
言われるままに書いたものをネモ君に渡すと、ネモ君はそれをシャッフルした後、適当に双六盤――チェット盤からジョブチェンジね――の印を付けた場所に伏せて置いた。
「……そこに停まったやつが、そのカードを捲るわけだな?」
「そしてカードの指示に従う、と」
「そういうこった。んで、これが持ち金な」
ネモ君が各自にチップを数枚配って、愈々ゲームの開始となった。双六なんて子供騙し、一時の時間潰しになれば上出来……と、思っていたんだけど……
「……おいネモ、分岐はどっちに進んでもいいのか?」
「好きに選んでも良いし、骰子に運を任せる手もあるぞ? 〝骰子の目が偶数なら右、奇数なら左〟って具合にな」
「……そっちの方が面白そうですわね」
「はい決まり! エリック……君、さっさと骰子をお振り遊ばせ」
「おぃ……まぁいいけどさ。……右か」
「お、カードを捲るのか。〝吉事があったので、全員からチップ一枚をご祝儀として貰う〟……おらおら、さっさと支払いやがれ」
「ちょ! 俺、ついさっき〝所持金半額没収〟ってなったばかりなんだけど!?」
「ネモ君、さっきも〝金を掘り当て〟てたわよね……」
「……泡銭の神様に魅入られてるんじゃないのか?」
「三出るな、三は出るな……あぁ! 一回休み……」
「ロドニー……お前、さっきから休んでばっかりで、ちっとも進まないじゃないか」
「骰子の神に魅入られてるとしか思えんな……」
「そんな神様、要らない……」
「――何ですの!? この期に及んで〝スタートに戻る〟だなんて!!」
「あちゃー……お嬢、ゴール目前でついてねぇな」
…………あのカードを書いたのが私だって事は……うん、黙っていよう。