第六十一章 冬季野外実習~二日目~ 10.キャンプハウス:ラウンジから娯楽室
~Side ドルシラ~
将来の方向性について悩んでいたところ、そこへふらりとやって来たネモさんが相談――で、いいのですわよね?――に乗って下さいまして、途轍も無い怪説を披露して下さったので、悩みなどどこかへ吹っ飛んでしまいました。もしもネモさんの仮説が正しければ、火魔法そのものの考え方を一新しないとならないほどの大問題です。
正直、荒唐無稽な話にしか思えないのですけれど……その身を以て荒唐無稽を体現していらっしゃるネモさんが言うとなると、発言の重みも違ってきます。虚心に検討する必要があるでしょう。
上手くすると強い手札を一枚得る事ができますし、そうでなくても火魔法の精度が一段上がる気がします。……ウジウジと凹んでなんかいられませんわね。
自室に引き取り次第訓練を――と、内心で意気込んでいたのですが……そこにカルベインさんが登場なさいました。
「よぉカルベイン、来るなり何をキョロキョロしてんだ? 捜し物でもあるってのか?」
「ネモか……ラウンジって何かゲームの類は置いてなかったか?」
「ゲームだぁ?」
……カルベインさんのおっしゃる〝ゲーム〟というのは、卓上遊戯の事ですわよね? そういうのって、ラウンジに置いてあるものなのですかしら。……言われてみれば、置いてあってもおかしくないような気もしてきましたけど……少なくともレンフォール家では、そういう遊戯の類が置いてあるのは……
「そういうのって、娯楽室とかに置いてあるもんじゃねぇのか? 宿舎の案内板にも、ちゃんと『娯楽室』ってのが書いてあったぞ?」
……やっぱりそうですわよね。「娯楽室」に娯楽道具が置いてなかったら、何のための「娯楽室」なのかという事になりますもの。「娯楽室」としてのアイデンティティの危機ですわ。
「確かにそうなんだが、数が足りないんだよ」
「あ? カードの札が欠けてるとか、駒が揃ってないとかか?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
カルベインさんがおっしゃるには、娯楽室に集まった生徒の数が多過ぎて、備えてあるゲームが足りないのだそうです。
「で、ひょっとしたらラウンジにも何か無いかと思って来てみたんだが……」
「いや……見てのとおり、そういうなぁ何も無ぇな」
「そうか……」
失意のカルベインさんと連れ立って、済し崩しにそのまま娯楽室へ行く事になりました。学園実習用の宿舎にどんな「ゲーム」が置いてあるのか、少し好奇心も疼きましたし。……そう言えば、寮にも娯楽室がありましたわね。私は行った事はございませんけど。
「あ? 寮の娯楽室も同じだってのか?」
「あぁ。多分だけど、長年の間に札や駒が足りなくなって処分されたのが結構あるんだろうな。そのせいで寮の娯楽室も、慢性的な不足状態だ」
「んなもん、自分で持ち込みゃあいいだろうが」
「……自分で持ち込むにも、まずゲームの入手が難しいんだ。実家のを勝手に持って来るわけにはいかないし、自分で買おうとしたら親父の雷が落ちる。〝学業を本分とすべき学生の分際で、遊戯に現を抜かそうとするとは何事だ!〟――ってな」
「……おぅ……」
「そして仮に、そういう苦難を乗り越えてゲームを入手した者がいたとしても、それをむざむざ娯楽室に提供すると思うか?」
「……しねぇだろうな」
「だろ?」
そんな他愛も無い事を話しながら娯楽室へと足を運ぶと、そこには〝ゲーム〟を待ち構えていたと覚しき方々がいらっしゃいました。