第六十一章 冬季野外実習~二日目~ 4.スキー騒動(その2)
~Side コンラート~
野営実習の後は自由時間だと言われたので、前日からの疲れもあってキャンプハウスの部屋で休んでいたんだが……ふと気が付くと騒動の元の姿が見当たらない。あいつを野放しにしておくと、何をしでかすか解らない――というのが我々の共通認識だ。一体どこへ雲隠れしたのか。
エルメインなら知っているかもしれないと思って訊こうとしたら、そのエルメインは何か窓の外を注視している。何を見ているのかも気になったが、今はそれより危険物の事だ。
行方を知らないか訊ねてみると、黙って窓の外を指さした。
「……何だ?」
エルメインが指さした方角にあるのは、一面の雪に覆われた斜面だけ……いや……何かが斜面の上を動いて……いや、滑っている。
次の瞬間に思い出したのは、昨日の実習で斜面を滑り降りてきたネモの事。
昨日は座って尻で滑り降りて来たが……今見ているそれは、立った姿勢のまま滑っているように見える。
「……あれは……ネモなのか?」
――と訊いてみたら、エルメインは黙って頷いた。
よくよく仔細を訊いてみれば、我々が寝んでいる隙に、ネモは気配を殺して部屋を出て行ったのだという。エルメインはそれに気付いていたが、彼はアスラン殿下の護衛だから、勝手にお傍を離れるわけにはいかない……というのは解る。
だが――せめて一報入れてくれていれば……
「皆さん能くお寝みでしたし、ネモが気配を殺したのも、起こさないための配慮かと思っていたので」
――と言われてしまえば、こちらとしても黙るしか無い。
だが、今はともかくネモの事だ。
あいつが何をやっているのかは解らないが、放って置くのは拙いような気がする――いや、絶対に拙いに決まっている。
とにかくジュリアン殿下をお起こしして、あいつの許へ駆け着けなければ……
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~Side ジュリアン~
部屋で転た寝していたら、血相を変えたコンラートに叩き起こされた。一体何事だと思って訊いたら、ネモ君が密かに部屋を脱出したらしい。……うん、一大事だね。
こちらもやはり目を醒ましたらしいアスラン殿下と、ついでに他室で休んでいたレンフォール嬢も呼び寄せて、詳しい事情を訊く事にした。その結果判ったのは……
「つまり……ネモ君は黙って部屋を抜け出して、あそこで一人、斜面滑りにうち興じていると……そういう事だよね?」
今は自由時間なのだし、ネモ君が何をしていようと咎められる筋合いは無い。
無いんだけど……彼の好きにさせた場合、何をやらかすか予想が付かないからなぁ……
現に今も、何か僕らの知らない道具を使って、雪の上を自在に滑っているみたいだし。
「とにかく、今は一刻も早くネモの許へ急ぐべきだと具申します」
コンラートの提案に対しては、誰一人異議を呈さなかった。後は実行に移すだけ……だったんだけど……
「あ――教師が二人飛び出して来ました。……アーウィン先生とオーレス先生のようですね」
会議の間も外を見張っていたエルメイン君が発した言葉は、僕らが後れを取った事を告げていた。