第六十一章 冬季野外実習~二日目~ 3.スキー騒動(その1)
~Side ネモ~
かまくら――俺たちの班はイグルー――を造った後、午後は自由時間という事になった。雪だるまを作ってるやつらが何人かいたが、大半の生徒は部屋に引き取って休むらしい。全く惰弱な連中だぜ。
スキー教室はどこ行ったんだと思って、先生方にそれとなく確認したんだが……今回の実習にスキー教室は含まれてないらしい。……マジかよ。ゲームじゃキャッキャウフフのスキーイベントだったってのに……
――いや……誤解してほしくないんだが、俺が残念に思ってるのはスキーの方であって、キャッキャウフフの方じゃねぇからな。
前世の児童会で憶えて以来、スキーとかスケートは俺のお気に入りだったんだ。スケートの方は郷里にいた頃に時々やってたんだが、スキーの機会は中々無かったからな。久々に滑れると楽しみにしてたんだが……
……いや……今からでもできなくはねぇか……
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部屋でぐったりしている班員どもを尻目に、こっそりとキャンプハウスを抜け出す。軽く隠形――【狩りの心得】スキルを持ってると、こういう事もできる――を使っておいたから、エル以外にゃバレる事も無いだろう。そのエルはアスランを放って出て来たりしないだろうから、俺が邪魔される心配は無いって事だ。
『マスター どこいくのー?』
『何、ちょっとばかり雪遊びをな。美味いもんを食うわけじゃねぇが、結構楽しめる筈だぞ』
そう言やヴィクには、スキーもスケートもさせた事が無かったよな。好い機会だから教えておくか。
『たのしみー』
そうかそうか、良い子だなヴィクは。スキーが終わったら、何か温かいもんでも作ってやろうな。
『わーい♪』
ヴィクを連れた俺が目指しているのは、キャンプハウスに隣接する斜面だ。こっちはちゃんゲームどおりに存在してるんだよな。……なのに使わないってのは勿体無い話だ。俺が有効活用してやらんとな。
斜面を登るのを嫌ったせいか、それとも少し離れていたせいか、ここまでは生徒も雪を取りに来なかったようだ。おかげでまっさらの新雪を楽しめるってもんだぜ。
輪かんじきを履いて斜面の上まで登ると、かんじきを自作のスキー板に履き替える。学園のガラクタ市で買っといた羽目板が、どうもヒッコリーっぽかったんで、これ幸いとスキー板の自作に踏み切ったんだ。……まぁ……最初の頃は上手くいかずに、ちっとばかり材を無駄にしたが……〝終わり良ければ全て良し〟って云うしな、うん。
スキー板を履いて手袋を着け、両手にスキーストックを持てば、一端のスキーヤーに早変わりだ。斜度はそこまで無いし、滑っても雪崩を誘発する心配は無いだろう。ゲームでもそんな場面は無かったしな。……いや、あまりゲームの展開に拘るのも良くない気がするが……少なくとも今回は、雪崩の心配はしなくてよさそうだ。
おっと、雪目の防止にサングラスも着けんとな。……サングラスで目付きが隠れるからって、前世の友人たちからも好評だったんだよな。くそ。……いやまぁ、別方向に迫力が増したとも言われたが……
こっちの世界にゃサングラスは無かったんで、故郷じゃ雪眼鏡――って言うか、遮光器を使ってた。エスキモーとかが使ってるやつ……っていうより、遮光器土偶の名前の元になったやつって言った方が解り易いか。要はスリットを入れた板を眼鏡みたいに掛けて、スリット越しに外を見るわけだ。原始的なスノーゴーグルだな。
目に入る光の量を制限する事で、雪面に反射された紫外線による障害を防ぐ事ができるんだが……視界を狭めるっていう欠点もあるんだよな。特に足許が見にくくなるってんで、地元の猟師さんたちからは不評だった。……いや、眩しくないのは良いとも言われたんだが。
そんな愚痴をゼハン祖父ちゃんに零してたら、代替品は無いのかと訊かれたんで、前世にあったサングラスの事を話してみた。こっちでも眼鏡は――普及品とまでは言えなくても――既に存在しているし、色ガラスの事も知られているみたいだったからな。
納得して聞いていた祖父ちゃんが、試作品だと言ってサングラスを送ってきたのが年明けの初め頃。新学期が始まって直ぐの事だった。もう少し早ければ、サクシルの町に行った時に使えたんだがな。
錬金術師を引き入れて試作したらしいが、手間とコストがかかるんで、当面は一般販売はしないそうだ。一部の金持ち相手に売り付けようと思うが、その前に使ってみてくれと言われたんだよな。祖父ちゃんも釣りに行く時に使ってみて、水面の反射を低減してくれる事は確認したそうだが。
――さて、それじゃ久々のスキーを楽しむとするか。