第七章 初めての武闘会 5.道場対抗戦(その1)
~Side ネモ~
あの忌々しい決起集会から六日後の火の日、平穏無事をモットーとする俺としては大いに好ましくない大武闘会が始まった。……いや、見る側としては面白い――と言うか期待してたんだけどな。まさか参加する側に立つとは、夢にも思ってなかったんだよ。
ちなみに、今週は学園も休校状態だ。だから、学園を出て武闘会を見物するのも自由なわけで……
「ネモはその変な棒で出場するのか?」
「頑張れよ、ネモ」
「学園の名に賭けて、無様な試合なんかするんじゃないぞ」
「卑怯なやつらなんか、構わないから邪眼でやっつけちまえ!」
……いつの間にか俺たちが学園代表みたいになっているのはまだしも……おぃ、最後のやつ、人を邪眼持ちみたいに言うんじゃない。本気にするやつがいたらどうすんだ。
(「……信じるも何も、確固たる事実だろ?」)
(「一応鑑定結果では、邪眼持ちとはなってないそうだが……」)
(「俺は鑑定結果よりも自分の目を信じる!」)
(「だよねぇ……」)
益体も無い事を話していたら、俺の出番がやってきたので、この日のために鍛冶屋のおっちゃんに作ってもらった得物を携えて立ち上がる。
俺の得物は百四十センチほどの棒の先に鎖分銅を取り付けたもの。前世日本では「乳切木」または「契木」と呼ばれていた、長柄の打撃武器だ。西洋で言う「モーニングスター」や「フレイル」に近い。元は脱穀用の唐竿から発展したとも言われているから、武器屋でなく鍛冶屋のおっちゃんに話を持って行ったんだが……案の定、簡単に作ってくれた。
打ちかかる棒を受け止めても、鎖で繋がった分銅はそのまま惰性で動いて相手の後頭部や背中を打つ。初見殺しの要素があるから、先鋒ぐらいは引っ掛かってくれるだろう。
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……先鋒ぐらい引っ掛かってくれるだろうと楽観していたんだが……何だよこいつら。先鋒は俺が少し睨んだだけで腰を抜かしやがって……得物もろとも蹴り飛ばすだけで片が付いたわ。次鋒と中堅も似たようなもので、実際に「乳切木」を振るう必要は無かった。……【眼力】はステータス確認のためにしか使ってないんだけどな。まぁ、あれだけ貧弱なステータスじゃ無理もないか。どうも十二歳児相手って事で油断して、王族の前でいいとこ見せようとヘナチョコ貴族が出張ってきたみたいだな。でなきゃ、幾ら何でも弱過ぎる。
ただ……今俺の前にいるやつは本物だ。こりゃ、全力でやっても負けるかもな。
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~Side アレン・〝肉切り包丁〟~
ちょいと柵のある貴族に頼まれて、道場対抗戦ってやつに出る事になった。相手は王都有数の達人だってぇから期待してたんだが、直前にぎっくり腰をやらかして、急遽代理の者が出る事になったらしい。逃げ口上とかじゃなくて本当に腰をやっちまったらしいが……ありゃ、酷ぇからなぁ……。俺も一度やっちまった事があるから解るんだが……後で見舞いでも持って行くか。
代わりに出場するのが学園のチビっ子だってぇから拍子抜けしてたんだが……どうしてどうして、凄腕どころじゃねぇ気配に驚かされたわ。妙な武器を持ってやがるが、ありゃフレイルってやつだろう。下手に受けると後頭部か後ろ首にいいのを貰う、初見殺しの武器だ。それでなくても受けにくいし……厄介な得物を持ち出してきやがった。
ガタイも良いし、あれで本当に十二歳かよ。目つきなんか尋常じゃねぇぞ。四、五人殺してるって言われても納得するわ。
ま、俺も「大陸七剣」の一人なんて大層な肩書きを背負わされてるんだ。ガキ相手に恥ずかしい真似はできねぇな。