第六十章 冬季野外実習~一日目~ 2.雪上歩行実習(その2)
~Side ジュリアン~
冬季野外実習の二日目――と言うか、実習地に着いた日の翌日――は、恒例の雪上歩行実習に充てられていた。要はスノーブーツを履いて積雪の上を歩く訓練なんだけど。
まずは出発の前に、スノーブーツ着脱の手順を学ぶ。
僕らに配布されたスノーブーツは簡単に言えば、防水性の高いブーツと着脱可能な歩行具――靴底に装着して接地面積を増やす板――の組み合わさったものだ。これを着ければ雪の上を沈まずに歩く事ができる。まぁ、多少重いという欠点はあるけど。
僕らが慣れない作業に手こずっている傍らでネモ君は、慣れた手付きで自前の歩行具を着けていた。ただその歩行具は、僕らのスノーブーツとはかなり違っていたけど。
「……ネモのは随分小さいな?」
「それも自作なんですの?」
「まぁな。故郷で使ってたやつに、少しばかり手を加えたもんだ」
ネモ君が持参した歩行具は、簡単に言ってしまえば〝靴を取り囲むように曲げられた木の枝〟とでもいうものだった。僕らのスノーブーツが「板」なのに対して、ネモ君の歩行具は「輪」とでも言うか……雪の上に〝浮かぶ〟効果は僕らのより低そうだけど、小さい分だけ歩き易そうだ。それぞれに一長一短があるという事だろう。
とりあえずブーツを履き終えると、早速に歩行訓練が始まった。とは言え全クラスが纏まって移動すると雪道が荒れるという事で、クラス毎に分かれての歩行訓練になるようだ。僕らAクラスは、途中までBクラスと行動を共にするみたいだけど。
少し平地を歩いて歩行に慣れた頃合いで、雪の斜面を登る実習に切り替わる。
「もう少し平地を歩かせて、歩行に慣れさせた方が良いんじゃねぇのか?」
ネモ君の意見は尤もなものに思えたけど、
「恐らくだが歩行の習熟よりも、経験を積ませる事を優先しているのだろう」
――というのがコンラートの見解だった。
「……なるほど。だったらこの先、色々と面倒そうな場所を引き廻される……って、覚悟しといた方が良さそうだな」
あー……うん。そういう事になるのかな……
・・・・・・・・
最初のうちはクラス毎に移動していたけど、山道に入った段階で行列が少し組み替えられた。先頭を進んでいるのはAクラス担任のアーウィン先生と、A・Bクラスから選抜された男子生徒たちだ。体力があって雪上歩行が巧みな者が選ばれ、先頭を新雪を踏み固めて進み、歩き易いようにしてくれている。かなり体力を消耗するみたいで、交代でその作業――ネモ君には「ラッセル」と言っていた――に当たっているけど。
そしてそのネモ君は、高い身体能力を持つにも拘わらず、ラッセル作業を免除されていた。理由は彼の歩行具が、雪を踏み固めるのに向いていないと判断されたからだ。
そもそも彼が自前で歩行具を用意する羽目になったのも、言ってしまえば学園側――と言うより国側の失策のせいだからね。先生方もさすがに無理は言えなかったみたいだ。
ちなみに僕やアスラン殿は、立場上先頭班を免除されている。その護衛であるコンラートやエル君も然り。僕たちは他の生徒よりも、不本意ながら少しだけ雪道に慣れているんだけど……世の中は上手くいかないものだね。
先頭班が雪を踏み固めて歩き易くしてくれているとは言え、慣れない雪道、それも坂道を登るのはかなり疲れる。特に女子にはかなりきついみたいで、レンフォール嬢の息が上がっていると見たネモ君が、
「お嬢、何だったら、試しにこれを使ってみるか?」
――そう言って【収納】から取り出したのは……




