第五十八章 冬季野外実習~六日前~ 2.担任からの打診
~Side ネモ~
「あー……ネモ、実習に使う『スノーブーツ』の事なんだが……」
「はい……?」
アーウィン先生の話ってのは要するに、俺のスノーブーツの手配が少し遅れてて実習に間に合いそうにないから、自分で用意しろって事だった。問題無い、ちゃんと準備は整えてある。そう答えようとしたところで……
「待って下さい先生。実習の準備は学園側が責任を持って行なうと、『学園案内』にも明記されています」
……見過ごせないといった様子で口を挟んできたのは、コンラートのやつだった。俺だけ自前で用意させるというのは、学園の規則の上でも理念の上でも問題があると言うんだが、
「――いや、ネモは色々と規格外だからな」
……身体のサイズが――って事ですよね? 先生。
「ネモが規格外というのには同意しますが、だからと言って……」
「いや、話は最後まで聞いてくれ。予め用意してあるブーツはサイズが合わないという事で、特注する事になったんだ。無論、代価は学園が持つという事で。
「で――製作の方は滞りなく進んでいたんだが……急な豪雪で騎士団が派遣される事になって、冬装備の不足が露呈したわけだ」
……何だかオチが読めてきたな。コンラートのやつも気が付いたのか、微妙な顔をしてやがる。
「それで……大至急に入用だという事で、半ば仕上がっていたネモのブーツも、そっちへ廻さざるを得なかった。で、改めて材料を仕入れて作り直そうとしたところが――」
「材料が払底してて手に入らず、取りかかるのが遅れた――と」
「そういう事だ。それでも例年どおりのスケジュールであれば、ギリギリ間に合う筈だったんだが……」
「実習の日程が繰り上げになったせいで、間に合いそうになくなった――と」
「そういう事だ」
まぁ、こりゃ巡り合わせが悪かったってだけで、誰を責める事もできんわな。
「それで――ブーツ自体は学園から支給するのは勿論だが、今回の実習に関しては間に合わない事がほぼ確定している。なので、今回は市販のもので間に合わせてもらえないか――というのが、学園からの要請になる。ブーツの代価は学園が一部を負担するそうだ」
「いや、そこまで……」
「あ、それだったら、この間の除雪作業の時に渡すつもりで用意してた分を廻せばいいんじゃないかな」
「あぁ、確かにそれで……」
「いや、お志はありがたいんだがなフォース。外套なんかと違って靴ってやつは、キチンとサイズが合ってないと拙いんだが……俺の足のサイズまで把握してんのか?」
それはそれでドン引きだと思ってたんだが……ジュリアンのやつ、そこまでは気が廻らなかったって顔だな。ま、気持ちだけありがたく貰っとくわ。
「まぁ、私物で構わないというんなら、自前のやつがありますから」
ゼハン祖父ちゃんが用意してくれた、水産ギルド御用達のやつがな。ほとんどまっさらの新品で、まだ足に馴染んでないから、サクシルの時は動き易さを重視してスパッツを使ったんだが。好い機会だから、今度はこっちを使うとするか。
「ブーツはともかく、雪山用の装備は付いてるのか?」
「あぁ。猟師さんたちの狩りに混じって、冬山に入る事もあったからな。自前のやつがあるし、ブーツにも付けられるのは確認済みだ」
湖畔に生えてる角張ったヨシみたいなので作った、自作の「輪かんじき」だけどな。
ま、その話は措いといて……この「実習」ってやつ、基本的にはスキー教室なんだが、ゲームだと「かんじき」みたいなのを履いての歩行訓練もあったんだよ。C・Dクラスの庶民連中はともかく、A・Bクラスの連中は苦労するって話だった筈だ。……確かナイジェルでプレイしてたら、雪道の歩き方を教えて親密度が上がる――という展開もあったっけな。ま、俺には関係無い……いや……この流れだと俺が教える事になる……わきゃないな。そのために先生方が同行するんだし。
「ネモ班は全員が冬山の経験者だそうで助かるよ。例年、指導する側の手が足りなくてね。今回はその分を他の生徒に廻せそうだ」
いや……それって……俺にこいつらの面倒見ろって事ですか?
『いつもとおなじだねー マスター』