第五十八章 冬季野外実習~六日前~ 1.実習の予告
~Side レスリー・クィントン~
王都では数年ぶりとなる豪雪と、それに伴う「特別課外活動」――略して「特活」――で授業が潰れた日の翌日、担任のアーウィン先生から通達がありました。
「あー……昨日のうちに言っておけばよかったんだが……来週後半に『冬季野外実習』が開催されるので、準備をしておくように」
アーウィン先生、少しうっかり屋さんですものね。
それはともかく、「冬季野外実習」ですか……。確か、将来に備えて冬山での野外活動の経験を積む事を目的とし、併せてクラスの親睦を図る……とか、学園案内に書いてありましたね。要は郊外キャンプの冬山版なのでしょう。……えぇ……あの「郊外キャンプ」の。
まぁ、私たちの普段の生活に鑑みて、態々雪の積もった中に出て活動するような機会は少ないだろう、だったら在学中に経験させておこう……と、学園の方では考えたのでしょう。趣旨としては立派です。
ただまぁ、実際には微妙なレクリエーションの場になっている――って、先輩方がおっしゃってましたけど。……ちなみに、〝微妙〟の詳細については教えてもらえませんでした。解せません。
何はともあれ、退屈な授業が潰れて非日常の行事に振り替わる――と察した人たちが喜んでますけど……その中にあって複雑な表情を浮かべておいでの方々もいらっしゃいます。
……えぇ、新年早々に雪山に赴く羽目になって、大変な思いをした皆さんです。
「あー……中には冬山の経験豊富な者もいるだろうが、そうでない者の方が圧倒的に多いので、そこはクラスメイトとして、曲げて参加してほしい」
まぁ……私たちはそこまで〝経験豊富な〟目には遭わなかったんですけど、ドルシラ様たちは大変だったみたいなのよね。何たってあのネモ君がぶっ倒れたっていうんだから、どんだけ大変だったのか判ろうってもんじゃない?
……そのネモ君は思ったより動じてないわね? ドルシラ様をはじめ、殿下たちはウンザリした表情を浮かべておいでなんだけど。……覚悟が決まったっていうやつかしら?
あ、エリックの馬鹿も皆と一緒に浮かれてるけど、あいつは鳥頭で苦労した事を憶えられないだけだから別枠ね。昨日の雪掻きでもアーウィン先生から、〝お前は他の連中より経験豊富だろうから、率先して手本を見せてやってくれ〟……な~んて煽てられて、好いように扱き使われてたし。
まぁでも〝準備〟って言われても、冬山用の装備とかは学園の方で用意してくれるみたいだし……おやつでも買い揃えておけばいいのかしらね?
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~Side ネモ~
冬季野外実習…………あー、スキー教室のイベントか。あったな、そう言えば。
ヒロインとの親密度がちょっと上がるだけの、大して毒にも薬にもならんミニイベント。まぁ、スチル回収のためだけにクリアーするやつも多かったみたいだが。……前世の俺の妹みたいにな。
けど、俺の記憶じゃこのイベント、もう少し後だったような気がするんだが……あー、そうか。スキー教室なんて天気次第だもんな。多少の前後は仕方あるよな、そりゃ。今年は少し繰り上げになったって事か。
ジュリアンとかお嬢は複雑な面してやがるが……安心しろ、こっちは単なるミニイベントだ。キャッキャウフフが目的なんだから、そうそう雪崩で死にかけるような事は無ぇよ……多分。
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ホームルームも終わったんで帰ろうとしたら、
「あぁ、ネモはちょっと残っててくれ」
――アーウィン先生に呼び止められた。一体何だってんだ?