第五十七章 特活の日 4.魔力操作の訓練(その2)
~Side ネモ~
一仕事終えて教室に戻って来たところで、ドルシラのお嬢にとっ捕まった。珍しくも俺の助言が欲しいみたいな事を言われたんだが……
「【魔力操作】?」
「えぇ。ネモさんは入学前から【魔力操作】に目覚めておいでだったと聞きましたわ。【生活魔法】の修練で身に着けたとお聞きしましたけど、宜しければ具体的な訓練法を教えて戴けませんかしら?」
……つってもなぁ……俺は別に【魔力操作】を得ようとして訓練してたわけじゃねぇ。【生活魔法】を使い倒してたら、いつの間にか生えただけなんだよなぁ。
「えぇ。ですからその、【生活魔法】による【魔力操作】の……いえ、スキルとしての【魔力操作】ではなくて、魔力の扱い方を向上させるような【生活魔法】の使い方について、アドバイスを戴けませんかしら」
【魔力操作】の訓練をしたいが、そのために【火魔法】をぶっ放すのはアレだ――っていうのがお嬢の言い分だった。まぁ、それについては解らんでもないが……
ただなぁ……俺の場合はちょっと特殊なんだよなぁ。
【魔力操作】ってスキルの事は知らなかったが、魔力の訓練法については前世のラノベとかで読んだ事があったから、それを参考にしてたんだが……まさかそんな事をカミングアウトするわけにもいかんしな。さて……
「【生活魔法】を使い倒してたら、いつの間にか生えてただけだからな、俺の場合は。どれが訓練になったのかって言われても困るんだが……そうだな、記憶を辿ってみた限りだと、【点灯】辺りが有望なんじゃねぇかな」
「【点灯】……ですの?」
「ま、消去法なんだがな。俺の場合、【着火】や【施錠】は速さを念頭に置いて使ってたし、【浄化】でも威力……ってか、効果を大きくする事を目指してたような憶えがあるんでな。残るのは【点灯】じゃねぇか――って事になる」
「あぁ……ネモ君の【点灯】は、光球じゃなくて光条を放つんだったっけ……」
「『集束光』というんだったかな?」
……いつの間にか他の連中まで集まってやがる。
「光条ですか……私には少々難度が高いようですわね」
珍しくもお嬢が凹んでるんだが、
「いや、勘違いするなよ? お嬢。集束光を放てるようになったのは結果であって、【魔力操作】の鍛錬に使ってたわけじゃねぇからな」
【点灯】を使って魔力の扱いを訓練したのは事実だが、その遣り方は〝小さな光球を二つ生み出して、それを別々に動かす〟ってもんだったんだが……初心者にはハードルが高いと言われた。
「まず、光球を二つ生み出してそれを維持する――というのが難しいからね」
「あー……確かに、言われてみればそうかもな」
……そう言や二つ出せるようになったのは、少し後になってからだったっけな。忘れてたわ。
「ネモはなぜ光を二つ生み出そうなんて思ったんだ?」
エルのやつが不思議そうに言うんだが、俺の場合はなぁ……弟妹どもがまだ小さい頃、あやす時に使ってたんだよな。それぞれに灯りを点してやって、追いかけさせてあやしてたんだが。
「猫をじゃらしてるみたいだね……」
うん……否定はできんな。実際にその記憶から始めたような気がするし。
「……もう少し初歩的な方法はありませんかしら?」
「初歩的ねぇ……だったら、こういうのはどうだ?」
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~Side ドルシラ~
――そう言ってネモさんが教えてくれたのは、
「極力小さな灯りを点して、光量を変えずにそれを維持する……ですの?」
「おぅ。お嬢たちは照明の魔道具を当たり前のように使ってるから解りづらいかもしれんが、夜に作業をしていて手元を照らす時とかに、明るさがチラチラ変わると見にくいんだよ」
……考えた事もありませんでした。夜に灯りの魔道具を使うのは、私たちにとっては当たり前の事でしたから。……けど、そのせいで【点灯】の修練が疎かになっていた可能性はあります。
……授業が終わったら、直ぐにでも実家に連絡しないといけませんわね。皆さんそのおつもりのようですし。
「少し上達して、光を二つ出せるようになったら、今度は二つの光量を同じ程度に維持するとか、或いは片方の灯りをもう片方の二倍の明るさに維持する――とかな。やってみりゃ解るけど、結構難しいぞ」
……いえ…………難しいのはやる前から解る気がしますけど……
「【点灯】を上手く使えないやつは、自分が使える属性の魔法で同じような事をすりゃいいんだ」
あまり気張らずに気楽にやれ――って、ネモさんはおっしゃいますけど……これって〝気楽に〟できるような事じゃありませんわよね?