表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/359

第五十七章 特活の日 3.魔力操作の訓練(その1)

 ~Side ドルシラ~


 風の日の朝、起きてみたら外は一面の銀世界でした。学園入学以来の大雪でしたわね。

 無論、冬の休み中に殿下とご一緒させて戴いたあの(・・)雪山には及びませんけれど、それでもこれほどの大雪は――王都では――珍しいと言えます。


 それでも授業は平常どおりに行なわれるのだろうと思っていましたが、


「――え? 『特別課外活動』?」


 どうやら通常の授業の代わりに、特別な授業が行なわれるようです。

 担任のアーウィン先生のお話では、何らかの理由で予定の授業が進められなくなった場合のために、(あらかじ)め用意してある授業プログラムだそうです。悪天候に際して実施される事が多く、大抵は実習の形を取るのだとか。年間の授業カリキュラムとして組み込まれている通常の課外活動――郊外キャンプやダンス教室などですわね――に対してこう呼ばれるのだと、先生が説明して下さいました。


 今回は学園内の除雪作業を、この「特別課外活動」――略して「特活」と言うそうです――に当てるようです。……まぁ、学園内が雪に覆われたままだと、通常の授業も(まま)なりませんものね。


「先生! 具体的には何をするんですか!?」


 元気良く質問なさったのはカルベインさんですわ。授業が潰れるというのが余程に嬉しい……いえ、〝いつもと違う授業がある〟事が嬉しいのでしょうね。

 その気持ち自体は(わたくし)にも解りますけれど、仮にも貴族たる者、その気持ちを(あら)わに……と言うか、全開にするのはどうかと思いますわよ?


「あぁ、通路部分の除雪の他に、凍結した水路や水道の解凍、そして軒先から垂れ下がっている氷柱(つらら)の除去がある。こっちは不意に落下して、生徒が怪我するような事があっては危険だからだな」


 生徒たちはその魔法適性に応じて、それぞれの作業を割り振られるようです。具体的な作業については、その作業班のリーダーを務める上級生の指示に従うようにと言われました。

 火魔法持ちの(わたくし)は、水路や水道の解凍班に振り分けられるようです。ネモさん以外の方の指示で動くのは久々ですわね。


 ……そう言えば、そのネモさんはまだ登校していないようです。ネモさんは寮を出て学園外に下宿していますから、この雪で登校が遅れているようです。……雪を(かっ)(こう)の口実にして、自主休校を決め込むつもりじゃありませんわよね?



・・・・・・・・



 勇んで……というほどではないにせよ、少しは役に立てる筈だと思って解凍班に参加したのですが……身の程知らずでした。凍結した水道管の解凍という仕事は、ただ魔力量に任せて強い炎を放つだけの未熟者にどうこうできるような、そんな甘いものではなかったのです。


 強過ぎる炎は水道管を損壊しかねませんし、何より加熱する範囲は水道管の凍結部分だけに絞らなくてはなりません。ネモさんばりの【魔力操作】スキルがあればどうにかなったのかもしれませんが……今の(わたくし)には、そこまで精密な魔力の制御は難しいのが現実です。……郊外キャンプのバルトランさんを笑えませんわね。


 (おの)が未熟さに凹んでいましたら、先輩方が代替策を教えて下さいました。凍った水道管を直接加熱して解凍するのではなく、雪を融かして適温のお湯にしたものをかけるという方法です。

 これも火魔法の制御が必要になるのは同じなのですが――


「お湯はどうやっても百度以上にはならないし」

「目に見えない魔力の大きさをコントロールするより、お湯の沸き具合を目で確認して出力を調節してやる方が、ずっとやり易いでしょう?」


 ……確かに先輩方のおっしゃるとおりでした。


 魔力量を意識して調節するのが一番なのでしょうが、その魔力量の大きさを〝湯の沸き具合〟という目に見える形に置き換えるだけで、魔法の強さを具体的に実感する事ができます。

 聞けば学園に代々伝わっている訓練法なのだとか。

 一年生だと魔法を放つ事だけを身に着けて、その出力を(せい)(ぎょ)する(すべ)までは身に着けていない事がほとんどなので、こういった指導を行なうのだそうです。


「風魔法の場合は小旗の揺れ方なんかを目安にしてね」

「今回は水道管が凍ったのを融かすのが本来の目的だから」


 ……そうでした。魔力のコントロールを憶えるのは、そのための方便に過ぎませんでした。何となく、こちらの方が本命のような気がしていました。……自分中心に考えていてはいけませんわね。


 氷を融かすという事に考えが及んだ時、ネモさんはどうやって除雪するのだろうか――と、それが気になりました。ネモさんは全属性の持ち主ですけど、それぞれの魔法については――魔法というものを身近にご覧になる機会が少なかった事もあって――そこまでお上手ではなかった筈です。……あの【生活魔法】を別として。


 ですけれど……まさか雪に【着火(イグニッション)】を行使するような破天荒な真似は、幾らネモさんでもなさいません……わよね?



・・・・・・・・



 ……後になって、ネモさんが【収納】を駆使して除雪を行なったと聞いた時には、開いた口が(ふさ)がりませんでした。……やっぱりネモさんはネモさんだったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ