第七章 初めての武闘会 4.決起(もしくは開き直り)
~Side ネモ~
「……ネモ君の気が進まないようなら、僕が出てもいいんだけど……」
……また……こいつは何を言い出すんだ?
「おぃフォース、ちったぁ健全な良識に鑑みてものを言え。仮にもこの国の王子のお前が、たかが町道場の門人として出場できるわけ無ぇだろうが。第一、相手が気の毒だろう」
「ネモさんの口から〝健全な良識〟などという言葉を聞くと新鮮ですわね」
お嬢……俺を何だと思ってるんだ……?
「……同じ理由でリンドロームも駄目だ。隣国の貴族なんて厄介な者が出場して、下手に国際関係を拗らせるわけにはいかん。煩い顔見知りに見られでもしたら、面倒だろうが」
そう言ってやると、アスランは神妙な顔をして頷いた。政変を逃れて亡命中の王子が、下手な場所にしゃしゃり出るわけにはいかんからな。
「……仕方ねぇ……。おいリンドローム、エルを借りるぞ。隣国の目がちと気になるが、肌の色と髪の色を誤魔化しゃ何とかなるだろう。煩いやつらが何か言ってきたら、後始末は全部バルトランとお嬢に押し付けろ」
そう言ってやったら、レオとお嬢、ついでにコンラートが、ぎょっとした顔でこっちを向いた。自分たちだけ安全圏で高みの見物なんぞ、許すわけが無いだろう。相応のリスクってもんを負ってもらうぜ。
「バルトランとナイジェル、それにエルと俺で四人。これに道場主の末っ子を大将に仕立てりゃ、何とか頭数は揃うだろう」
「ご子息を巻き込む理由はあるのか?」
あぁ、ゲームじゃ性別未設定だったが、こっちじゃ男子なのか、末っ子。レオのロリコンルートは潰れて、ショタルートが開通したわけだな。頑張れよ、レオ。
「俺とエルは飽くまで客分だぞ? 名分ってやつは必要だろうが。万一俺たちが負けても、相手は王族の目の前で八歳児に乱暴しなきゃならんわけだ。体裁を気にする貴族にゃ堪えるだろうが?」
「……能くそんな事を思い付くね……」
「ま、そん時ゃ同時に、八歳児に尻拭いを押し付けた不肖の門人って評判も付くわけだ。それが嫌なら頑張るんだな、お二人さん」
「「う……」」
「味方にも容赦無いんだね……」
こっちは面倒事に引っ張り込まれたんだ。これくらい当たり前だろ?
「あぁ、それからなバルトラン、俺は剣なんかまともに振り回した事も無ぇんだ。得物は勝手に選ばせてもらうぜ?」
「あぁ、それは大丈夫だ。イズメイル道場では剣術以外も教えてるし」
行き掛かり上あっさり負けるわけにはいかんし、一勝ぐらいするとしても目立ちたくはない。どうせなら変な武器で出場して、意表を衝いて勝った事にすれば問題無いだろう。これでも生前は祖父ちゃんと祖母ちゃんから古武術の手解きを受けていたんだし、心当たりの武器なら幾つかある。
……とは言っても、今の俺は十二歳児。大人と渡り合ったら力負けする可能性がある。ステータス値は一般人より高めだが、何せ相手は天覧試合に出ようかって腕自慢だ。体力だってそれなりだろう。……という事は、それを考慮して武器を選ばなくちゃならないんだが……
パワー不足を補うなら遠心力、長柄武器って事になるか。鎖鎌とかは悪目立ちしそうだし……使えそうなのは……あれか? 後で冒険者ギルドで武器屋を紹介してもらおう。最悪手作りすればいいか。
「あぁ、それからな、俺は先鋒にしておいてくれよ? 武芸の心得なんかからっきしなんだからな。頭数と時間稼ぎ以外の成果は期待するな。引き分けに持っていけたら上々だと思ってくれ」
「解った。俺とナイジェルで、刺し違えてでも相手を倒す」
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~Side レオ~
ネモのやつは気乗り薄だったが、レンフォール嬢の後押しもあって、何とかこっちに引っ張り込む事ができた。……レンフォール嬢、完全に面白がってるな、あれは。
ネモは自信が無いような事を言ってたけど、あいつの眼力の威力は俺が能く知ってるからな。あいつがチンピラを威圧した時は、俺まで肝が冷えたもんだ。あの眼で睨み付けられてまともに戦える者なんて、向こうの門人にも何人いるか……
ただ一つの懸念は、相手側が手練れを助っ人に頼んだという噂なんだが……ま、これは俺とナイジェルで差し違えても止める。
……この時の俺はそう思っていたんだが……