第五十七章 特活の日 2.雪下ろしの合間に
~Side ネモ~
〝除雪作業の実習という目的に鑑みて、一般に行なわれている以外の方法による除雪作業を容認する事は、学園としてもできかねる。ゆえに【収納】による裏技的除雪を禁じる〟……と言い渡された筈のこの俺は、目下校舎の屋根の上で、雪下ろしの作業に励んでいる。……【収納】のスキルをフルに使って。
「いやまぁ建前は建前として、屋根の雪下ろしは毎年手間だったからね。ネモが参加してくれるのはありがたい」
「はぁ……」
上機嫌でそう宣っていらっしゃるのは、郊外キャンプの時にもお世話になった、博物学のオーレス先生だ。今回の雪下ろしの当番らしい。
いやな……前世の日本でも、北国での屋根の雪下ろしは重要な作業だったからな。理屈としては解るんだよ。……俺だけ「建前」から除け者にされてるのが、どうにも納得いかんがな!
「いや、雪下ろしの作業中に、下を生徒が通りがかったら大惨事になりかねんのでね。先生たちが毎年気を遣って作業していたんだが……今年からはネモが【収納】スキルで参加してくれるので、大分楽になるわけだ」
……今後も俺が参加するのは既定の方針なんですか。そうですか。
「無論、その分は考課に色を付けさせてもらうとも」
まぁ……【施錠】の件でも先生方には苦労を押し付けてるみたいですから、俺としても協力するに吝かじゃありませんけどね。
「ネモは雪下ろしに慣れているようだね?」
「そりゃまぁ、実家でもやってましたし」
「あぁ……やはり【収納】でかね?」
「スキルが発現してからはそうですね。それ以前は普通のやり方で」
故郷じゃ除去した雪は、川や湖に捨てていた。綺麗な雪は水甕に移して、飲み水や生活用水に使っていたけどな。
俺に【収納】スキルが生えてからは、一部の雪は保存して、夏場のおやつ代わりにしてたもんだ。弟妹たちが大喜びしてたっけ。去年の夏も、俺が帰省している間は出してやれたんだが……俺がいない間はどうしようもないからなぁ……
……ゼハン祖父ちゃんの伝手で雪用のマジックバッグを確保……は難しいか。
実家にゃ盗賊から取り上げたマジックバッグを渡してあるが、普通に買えば結構な値段するらしいからな。……俺は少し前にアウトレット品を、只同然の捨て値で手に入れたんだが。……アレを実家に渡すのは色々と拙いか。
「暑気払い用に雪を保存とは……ネモの【収納】はかなり大きいようだね」
「さぁ……量った事が無いので解りませんが……そもそも量れるもんなんですかね?」
「その辺りは工夫次第だろうが……私も専門ではないので、確言はしかねるね」
……俺の【収納】のポテンシャルは、普通よりかなり大きいみたいなんだよな。
だが、そんな事を気楽に明かすわけにもいかん。ここは話題の転換を試みるか。
「マジックバッグとかを使えば、保存しておく事はできるんじゃないですか?」
「だから……唯でさえ貴重なマジックバッグなのに、たかが雪のために使うわけにはいかんのだよ。……貴族の中にはいるかもしれんが」
「あー……貴族……」
ジュリアンとかは享受してそうだな。あんなんでも王家の一員だし。けど……
「学園では利用してないんですか?」
前世の日本じゃ冬の雪を貯蔵しておいて、夏場の冷房に使うとかって話があったんだが。
……思い出したぜ。節電と二酸化炭素の排出を減らす目的で試験的に導入したら、北国から雪を運ぶトラックや列車からの二酸化炭素排出量が、冷房による削減量の約三倍になった……って叩かれてた事があったっけ。
けどまぁ、地産地消(?)で利用する分には、問題無いと思うんだがな。苟も「魔導」学園なんだから、マジックバッグくらい自前で作れるんじゃないのか?
「あれは素材が高価なんだよ。況して校舎を冷やし得るほどに、大量の雪を保管するとなると――ね」
「あ、そうなんですか?」
マジックバッグの作り方なんて、まだ授業でも教わってないからなぁ。
「まぁ、マジックバッグは用意できんとしても、雪を保存するにはもっと簡単な方法があるわけだ。……氷室という方法が昔から――ね」
――てなわけで、俺が【収納】した雪は、その「氷室」に持ってって保管するんだそうだ。学園もやる事はやってるんだな。




