第五十七章 特活の日 1.【収納】式除雪法
~Side ネモ~
風の日の朝――起きてみたら外は一面の銀世界だった。……転移魔法か何かで雪山に飛ばされたのかと思ったぜ。
これまでにも何度か雪は降ってたが、ここまで積もったのは初めてだな。……少なくとも王都に来てからは。
二階の自室から下へ降りると、表で女将さんが汗だくになって雪掻きをしていた。大変そうなので俺が代わる。俺なら雪を【収納】してやるだけで、簡単に除雪ができるからな。
「はぁ……ネモ坊は【収納】をそんな事に使ってんのかい……」
「ま、ちょっと狡い気はしますが……折角神様から戴いた【収納】なんですからね。存分に活用しなくちゃ罰が当たります」
「そんなもんかねぇ……」
「そうですとも。……あ、取り込んだ雪はどうするんですか?」
「あ、あぁ……西広場に集める事になってるから、そこまで持ってってくれるかぃ?」
「お安い御用です。登校のついでに寄ってきますよ」
まぁ、ちっとばかり遠廻りにゃなるが、大した手間でもないからな。
・・・・・・・・
登校前に西広場に寄って、【収納】しておいた雪を捨てておく。綺麗な雪なら取っておいて、夏に欠き氷代わりに食べるんだが、こいつはちょっと汚かったしな。ま、夏の分は雪山に行った時に確保しておいたから、心置き無く捨てられるってもんだ。……間違えないようにしないとな。
住人総出で雪掻きしてるらしく、街中を歩く分にはそう苦労はしなかったんだが……いざ学園へ到着してみると、門の付近はまるで除雪がされてなかった。
……これはアレか? 生徒のほとんどが寮生なもんで、門の周りは後廻しにされたってオチか?
しょうがねぇから門から校舎までの間を、せっせと【収納】で除雪していく。事務員さんらしいのが目を剥いてたが、俺に文句を言うのは筋違いってもんだ。
ラッセル車になった気分で登校すると、今日の授業は中止だと聞かされた。
……だったら下宿で寝てるんだったぜ。
「いや、そうじゃなくて――通常の授業が雪掻きの実習に振り替えられただけだ。学園が休校になったわけじゃない」
「あ……そうなんですね」
「あぁ。年に何度かある『特別課外活動』、略して『特活』と呼ばれている」
――なんて、クラス担任のアーウィン先生が説明してくれるんだが……ちっ、前世で通ってた高校と違って、魔導学園は全寮制だからな。生徒の登校について慮る必要は無いってわけだ。……俺という例外を除けばな。
「その例外たるネモが、この雪の中を押して登校してくれたのは、担任として非常に喜ばしい」
「……どうも」
……気付かねぇ振りして自主休校を決め込んでりゃよかったぜ。街中の除雪の手伝い――っていう大義名分だってあったのによ。
ま、登校しちまった以上は仕方がねぇ。諦めて除雪作業に精を出すか。
「そこで――だ、ネモ」
「はい?」
「さっきも言ったように、これは授業の一環として扱われる。雪中活動の実習はもう少し後に予定しているが、それとは別の、市街地での除雪作業の実習という事になる」
「はぁ……」
……そう言やあったな、そんな実習。ゲームだと、キャッキャウフフのスキー教室だったんだが。
「そして実習と銘打つからには、実際に行なわれている除雪作業の実体験が眼目となる。ここまではいいな?」
「はぁ……」
「――で、あるからには、ネモが登校時にやっていたような、【収納】による裏技的除雪は不可となる」
「――は?」
えぇっと……つまり、実習として体験すべき作業を、チートでスキップするのは罷り成らんという事か? ……言われてみれば当たり前だな。家庭科で運針の練習をする時に、接着剤でくっ付けるようなもんか。そりゃ学校側も禁止するわ。
……後ろの方で小さな溜息やブーイングが聞こえるのは、教室に残っていたクラスの連中か? 俺の【収納】を期待してたのかもしれんが……悪いな、正論で禁止された以上はどうにもならねぇよ。
「具体的な実習内容だが……通路部分の除雪の他に、凍結した水路や水道の解凍と、軒先から垂れ下がっている氷柱の除去がある。生徒が怪我したら拙いのでね」
あー……なるほど。ギルドにも同じような依頼は出てそうだよな。
……待てよ?
アーウィン先生の台詞じゃねぇが……そういう仕事って、駆け出しの冒険者がやるもんじゃねぇのか? ……って事は……俺が【収納】で片付けちまったら拙いのか? いや……俺も充分〝初心者の駆け出し〟の筈なんだが……そう言うとギルマスが鼻で嗤うんだよな……
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。今回は二話のご披露となります。宜しければこちらもご笑覧下さい。




