表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
292/370

第五十六章 開かれた扉~マジックバッグ開封作戦~ 3.「アナンダのジャンビヤ」(その1)

 ~Side エルメイン~


 週明けの日の休み時間、ネモが俺のところにやって来て、古めかしくて(いわ)くありげなジャンビヤを渡して()()した。


「……何だこれは?」

「おぅ。いやな、町のガラクタ市でマジックバッグの出物を買ったんだがな――」

「マジックバッグの出物!?」


 驚いたようにネモの台詞(せりふ)(さえぎ)ったのはマヴェル様だが……俺も同じくらい驚いた。……この国ではガラクタ市でマジックバッグが売ってるのか?


「いや……それがちっとばかり訳ありな代物でな。『開かずのマジックバッグ』って評判だったらしい」

「『開かずのマジックバッグ』……」

「想像を絶する出品物ですのね……」

「待てネモ、それはつまり……開ける事のできないマジックバッグという事か?」

「まぁな。誰も買わずに長年店晒(たなざら)しにされてた、王都じゃ有名な代物だったらしいぞ」


 ネモの説明には絶句するしか無いが……開ける事のできないマジックバッグというのは、もはや〝バッグ〟とは言えんのじゃないか?


「そんなものがあったなんて……」

魔導学園(こ こ)に持ってくれば良かったんじゃ……」

「おれもそう思ったんだがな、フォース。何しろ中にどんなものが入ってるのか判らんのだ。万一何か危険物が入ってたら、持ち込んだ者が(とが)められる……そう思って腰が引けてたみたいだな」

「あぁ……そういう事……」

「言われてみれば無理もないかな」


 なるほど……そういう事情なら、表に出て来ず平民の間で受け継がれてきたのも解るが……このジャンビヤはそのマジックバッグの収蔵品か? だとすると……


「それで……ネモさんがそのマジックバッグを開封なさったという事ですの?」

「おぅ。おっかなびっくり色々やってたら、偶然どうにか――な」

「「「「「へぇ……偶然どうにか?」」」」」

「おぅ。偶然どうにか――だ」


 俺やアスラン様も含めて、全員が疑わしげな声を上げたが……ネモは飽くまで〝偶然どうにか〟で押し通すつもりらしい。


「で――話を戻すんだが、そのマジックバッグの中にこいつが入っていてな」


 ネモが渡して寄越(よこ)したので、鞘から抜いて確かめてみるが……良いものだ。(こしら)えからすると俺の部族のものとは違うが、同胞のものには違い無い。恐らくだがどこかの氏族に伝えられてきた、由緒ある品だろうな。


 ――で? これがどうしたんだ?


「いやな。造りからして多分エルと同じ国のもんじゃないかと思ってな。だとしたら俺が持ってるより、エルが持ってる方が良いだろう」

「……俺に預けるという事か?」

「と言うか、エルの裁量で処分してくれていい。俺だと扱い方は勿論、値打ちとかも解らんからな」


 (いず)れ故国に帰った時にでも、どういう来歴のものか調べてくれと言うんだが……


「だがネモ、俺も詳しいわけじゃないが、これはかなりの値打ち物だと思うぞ?」

「値打ち物かもしれんが、この国じゃその値打ちを正しく評価できんだろ? だったら、それはお前の国で正しく評価されるべきもので、そのためにはお前が持ち帰るのが一番だろうが」


 それでも逡巡(しゅんじゅん)していた俺に、ネモは〝借りの一部くらい返させろ〟――と言って押し付けてきた。雪山での事を言ってるんだと思うが……そもそもネモが雪崩(なだれ)の警告を発してくれなかったら、全員(まと)めてお陀仏になってたのは俺たちの方だ。俺もアスラン様も、雪だの雪崩(なだれ)だのの事はまるで知らなかったんだからな。借りがあるのは(むし)ろ俺たちの方だと思うんだが……


 判断に困ってアスラン様の方を見ると、微かに(うなず)いていらしたので、俺は礼を言ってそのジャンビヤを引き取った。

拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ