第五十六章 開かれた扉～マジックバッグ開封作戦～ ２．開封の結果
～Ｓｉｄｅ ネモ～
――というわけで、やって来ました野外訓練場。
幸い他には誰もいないし、先に結界を展開してから、リモートで作業すればいいか。
結界の設定は……デフォルトだと７：３でスピードに振られてるな。……これだと展開速度が速過ぎて目立つかもしれんし……６：４ぐらいにしておくか。
あ――いや、今回は事前に結界を張っておくんだから、速度より防御力に振っておこう。
……考えてみたら、これって毎回結界の特性が変わるって事か？ 俺一人で使う時ならともかく、誰かに見られたら面倒かもな。……設定はあまり頻繁に変えないようにしよう。
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結論から言うと――手間はかかったが、まぁ何とかなった。
前の持ち主は片付けられない系だったのか、嵩張る布なんかを無理矢理ギュウギュウと押し込んだせいで、入り口が詰まっていたみたいだな。布を一枚ずつ丁寧に、適宜【浄化】と【解錠】をかけながら、解すようにして取り出してやった。……豪く時間がかかったけどな。
……俺もマジックバッグは持ってるが、詰まる事なんか考えた事も無かったな。……他人事じゃないかもしれん。以後は気をつけよう。
で――今は下宿で中身の確認をやってるんだが……保存食料みたいなのも幾つかあるな。
……駄目だぞヴィク。賞味期限を疾くに過ぎてそうなものを、お前に食べさせるわけにはいかん。
『むー ざんねーん』
賞味期限切れの食い物で溢れてるんじゃないかと内心でビビってたんだが……さすがにそこまでの事は無かった。まぁ、マジックバッグとは言え容量はそこまで大きくないみたいだからな、さすがに食い物ばかりは詰め込まんか。期待してた素材とかはあまり入ってなかったが、手に入る傍からギルドに売ったりしてたんだろうな。嵩張るもの優先で放り込んでたみたいだが……何だこりゃ？
馬具はともかく……車輪に車軸？ ……これってひょっとして馬車の補修用か？ 確かに、いざって時にあった方が便利なのは解るが……普通、こういうのは馬車に積んどくもんじゃないのか？ いや……その馬車の積載量を増すために、マジックバッグに仕舞い込んで……そのまま忘れたってオチなのか？ ……簡単に手に入るもんじゃないのは確かだし、こいつは処分せずに俺の【収納】に移しとくか。
他には……天幕はともかく薪ストーブかぁ……。時節柄ありがたいもんじゃあるんだが……大丈夫かコレ？ 老朽化とか安全性とか使用期限とか。
……明日、冒険者ギルド備品管理部のジュゼッペ爺さんに見てもらうか。俺の【眼力】でも破損箇所や老朽箇所は判るんだが……実用上問題になるのかどうかまではなぁ……判断するには経験が足りてないんだよな。冒険者としてやってくなら、それくらいの目利きはできなきゃ駄目だろうし……好い機会だと思って教えてもらうか。
そうなると、中に入ってる細々したものも一応見ておいた方が良いな。
十把一絡げに纏めて後で処分しようと思ってたんだが……いや……王都で迂闊に処分すると、いつどこで手に入れたのか突っ込まれそうだな。春に帰省する時にでも、途中の町で売っ払うか。
いや……いっそゼハン祖父ちゃんに押し付けるって手もあるな。素材以外にも色々と入ってるみたいだし、祖父ちゃんに任せた方が楽で好い。……だとすると、やっぱり一つ一つ目を通しておかなきゃ駄目か。中身を見もせずに売っ払おうなんてしたら、祖父ちゃんの雷が落ちそうだ。
『マスターのおじいさんー？ こわいひとー？』
『あぁいや……怖いってのとは少し違うが……祖父ちゃんは商人だからな。商売絡みになると煩いんだよ』
商人としてもやってけるように鍛えてくれるつもりなんだろうが……俺の凶相じゃ客商売に向かない事ぐらい、祖父ちゃんも解ってるだろうに。
……まぁ、祖父ちゃんの事は今はいいか。中身の確認を続けよう。
斧……ってこれ、戦闘用じゃなくて、どう見ても木を伐るためのものだよな。……まぁ、あれば便利な道具には違いないが……マジックバッグに入れて持ち歩くようなもんかね？
他は……どデカい盥？ 何でこんなもんまで……あ、いや。オールらしいのも入ってるって事は、ボート代わりに使ったのか。他は……ランタンみたいなのが三つもあるが……全部油が切れてるな、こりゃ。
予備と覚しきナイフが数本入ってるのはまぁいいとして、折れた剣に底の抜けた古靴……って、片付けられない性格だったのか貧乏性なのか判らんな。……汚れた手拭いが数本入ってるところをみると……後者か？ 硬貨も剥き出しのばらで入ってるし、何か破れた書き付けみたいなのもあった。破れと汚れで、もはや何が書いてあるのか判らんけどな。
あと、ぶっ壊れた魔道具みたいなのもあった。派手にぶっ壊れてるせいで、もはや何の魔道具だったのかも怪しいけどな。
……これはあれだな、細々したものは深く考えずに突っ込んで、そのまま忘れたって可能性が濃厚だな。玉石混交と言うか石石混淆と言うか……
他には……うん？ ナイフの予備かと思ってたが……少し違うか？ ……やけに古めかしい短剣だな。アラビア風っていうのか……
【眼力】で鑑定してみると、「アナンダのジャンビヤ」って出たんだが…………どっかで聞いた事のあるような気もするが………………駄目だ、思い出せん。
……って事は、大したアイテムじゃないんだろう。「プレリュード」に登場するアイテムなら大抵チェックしてるからな。……ここがゲームの世界――少なくとも、ゲームと能く似た世界だと気づいてからは、必死で記憶を辿ってメモを作ったんだ。重要なアイテムはほぼ網羅してる筈。多分何かのフレーバーテキストに出て来たんだろう。
……そうだな、遊牧民繋がりって事で、明日エルにでも渡しておくか。あいつには命を助けてもらった恩もある。借りはこまめに返しておかんとな。
