第五十五章 お子様と私 3.シャル・ウィ・シング?
今回も解らないネタは、(生)温かい目でスルーして戴けると助かります。
~Side ネモ~
『マスター ネコのうたはー?』
……猫? 「猫○んじゃった」とか「山寺のお師匠さん」とかか?
「何か猫が気の毒だね……」
「……ネモさんは猫に怨みとか執着でもありますの?」
「いや? 別にそんなつもりは無いぞ?」
ちゃんと犬の歌だって知ってるしな。犬のお巡りが……アレも仔猫が泣いてるんだっけか……そう言や「トム○ジェリー」でも鼠に噛み付かれたり叩かれてたし……何か不憫だな、歌の猫。
……いや……ドラド○子猫……じゃねぇ、「ド○猫大将」とか「黒猫の○ンゴ」とかもあったから、そう一概には言えんか。
「……単なる歌だけじゃ弱いのかもしれないね。他の遊戯とか……振り付けがあるのはどうなのかな?」
ふむ……前世で言うと「○ンポ○パン体操」とか「ヒョッ○リ瓢箪島」とか「our踊り」とかか? 〝節制せぃと、酔い酔い言い〟――ってのもあったな。〝お前はト○になるのだ~〟とか合いの手を入れて。
あとは縄跳びしながら歌うやつとか。確か……
〝お帰りなさいお嬢さま。ちょっとお年頃〟……何か違うな。
他には……「無い無い音頭」とか……
「『無い無い音頭』?」
「……随分と虚無的なタイトルだね」
「ネモ、それはどういう歌なんだ?」
――いかん! また口に出てたか!?
「……えーとだな……遠い他国の六無ナントカってやつが愚痴ってた歌で……確か〝親も無し 妻無し子無し版木無し 金も無けれど死にたくも無し〟……だったかな」
「……そんな厭世的なのを、子供に歌わせるのはちょっと……」
「子供が将来を悲観しそうだね……」
ふぅ……何とか有耶無耶にできたみたいだが……問題は何一つ解決してねぇんだよな。ガキどもに受けそうな歌って、一口に言われてもなぁ……
大体、前世の俺がガキの頃歌ってたのも、歌謡曲とかじゃなくて……いや、ちょっと待て。
「おぃアグネス、今更訊くのも何だけどな、問題のガキどもってなぁ幾つくらいなんだ?」
うろ憶えだが……ガキんちょにとって歌い易い歌ってのは、発育段階によって違ってた筈だ。前世で妹が幼稚園の年少さんだった頃、お袋がそんな事を話してたような気がする。
確か……メロディーがシンプルで繰り返しが多くリズムが取り易い歌、擬音が含まれる歌、アスランが言ったように手遊びや動作が伴う歌……だったっけか? 低年齢向けのアニソンなんかも、そういう点を考慮して作曲するって聞いたような気がする。……そういや、今でも憶えてる歌が結構あるよな、アニソン。
まぁ、それはともかくとして――
どうなんだとアグネスを問い詰めた結果、返って来た答ってのが、
「年少さんから年長さんまで、ほぼ万遍無く――ですね」
「「「「「………………」」」」」
「処置無しだな、こりゃ」
「他人事みたいに言わないで下さい!」
アグネスはプンスカしてるが……そう言われてもなぁ……
どうしたもんかと一同揃って頭を抱えていたら、アスランのやつが……
「……故国にいた頃の記憶なんだけどね……評判の高い芝居の一座がやって来た時、その芝居で歌われる歌が、巷で流行った事があったんだけど……」
あー……前世で言うアニソンみたいなもんか。……いや、地球でもギルバート&サリヴァンの歌劇なんてのは、結構ファンが多いって聞いたな。ミュージカル映画のナンバーとか。……教えてもいいんだが、追及されると面倒だな。あと、テレビ番組なら〝老練、老練、老練――〟とか「雷鳥」とか。
「国の肝煎りで劇団でも呼ぶかい?」
「いえ、そこまでなさらなくても……教会で子ども向けの劇か何かを見せるとか、その程度でもいいんじゃありませんこと?」
――お? 話がそっちに転がったか。なら、俺もその流れに乗っかるとするか。
「だったらもう一歩踏み込んで、その劇をガキどもに演らせるか?」
学芸会のお稽古だってんなら、繰り返して歌わせる口実にもなるだろうしな。
「……悪くないかもしれないね」
「けど……策の成否は劇次第――って事にならないかな?」
「それはもう、子供に受けそうな演目を選ぶしか無いんじゃないかな」
「そうすると……勇壮な冒険ものでしょうか。もしくは、英雄叙事詩的な」
「……おぃマヴェル、そんな雄大なもん、ガキどもに演らせるのは無理じゃねぇか?」
「物語を通してやるわけじゃない。能く知られた話のさわりの部分だけなら、できない事も無いだろう」
「なるほど……勇者様やお姫様が大勢登場するお話なら、子供たちも喜びそうですね」
「それと――格好良い敵役だな」
俺としちゃ当たり前の意見のつもりだったんだが……他のやつら、揃って白い眼を向けやがった。全員の意見を代表するような形で、コンラートのやつが言うには……
「……ネモ、少しは考えろ。仮にも悪人を讃えるような芝居を、苟も教会が、それも頑是無い子供に演じさせるわけにはいかんだろう」
「そっちこそ勘違いするなマヴェル。肝心なのはその芝居と歌が、ガキどもに受けるかどうかだろうが。そもそも俺は、別に悪を賛美しろって言ってんじゃねぇ。善玉が善玉として輝くためには、その壁として立ち塞がる敵役がショボくちゃ話にならねぇ……そう言ってるだけなんだがな」
善玉が輝くのは、魅力的な悪役あってこそ――これは譲れん。前世の経験でもそうだったんだからな。
これにて本章は終幕です。




