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幕 間 雪の降る道を

 ~Side ネモ~


 ジュリアンのお守りで()いて行った筈のサクシルの町で、とんだアクシデントに見舞われて、()(そく)奄々(えんえん)と帰って来たんだが……その疲れも抜けきれない光の日(にちようび)、別の言い方をすると冬期休暇の最終日、俺は又候(またぞろ)ギルドからの指名依頼を受けていた。


「いや――今回は本当に大丈夫ですよ。街道筋にスノーギガスらしいのが出たらしくて、その対処に人手が欲しいというだけですから」


 「雪の巨人(ギガス)」なんて言うから、てっきり雪を被ったゴリラみたいな雪男か何かと思っていたら……違ってた。そうじゃなくて、どっちかって言うとワニみたいな魔獣らしい。普段は雪に潜って身を隠しているが、獲物が近付くと飛び出て来てパックリいくんだそうだ。……トタテグモとかツノガエルみたいなやつだな。

 基本雪山に棲んでいるが、冬になると積雪に(まぎ)れて下界に降りて来る事もあるんだと。


「基本雪の中に潜っていて、足音……と言うか振動で獲物の接近や大きさを察知しますから、馬車などは案外と襲われないんですよ。単身徒歩で歩いているような者は危険ですが、さっきも言ったように、基本的には雪の中に潜っていますから……」

「……積雪の浅い場所には近寄らない。つまり、道路脇の除雪をしっかりやっていれば、それほどの危険は無い――って事ですか?」

「そういう事です」


 そんなわけで、冒険者ギルドにスノーギガス狩りのお座敷がかかる事はまず無いんだが、今回はその珍しい例外らしい。


「いや、ネモ君たちも雪崩(なだれ)()(くわ)したそうですが……こっちでもあったんですよ、雪崩(なだれ)


 (たま)さか街道筋で小規模な雪崩が発生して、街道が封鎖されるような事態にはならなかったものの、街道近くにそこそこ深い雪溜まりができたんだと。その雪溜まりを伝うような感じで、スノーギガスが進出して来たらしい。


「ただまぁ、獲物がいない場所に長く留まる事はありませんから」


 俺たちの仕事は第一に除雪。雪の浅い領域を広げて街道への接近を阻止し、もし作業中にスノーギガスを見つけたら狩る――そういう事らしかった。

 まぁ、確かに面倒な仕事じゃなさそうだが……


「随分急いでる様子なのは何でですか?」


 今日は休日の筈なのに、冒険者が大勢集められてるんだよな。俺みたいな学生にまで声が掛かったところをみると、何か急ぐべき理由ってもんがありそうだが……


「いえ、近日中に王家への馬車便が通る予定なんですよ。その道を」

「あー……それで」


 王立学園の生徒は、在学中は王家に所属している形になるため、動員がかけられる事になったらしい。さすがにもう少し上の学年が中心みたいだが、俺は冒険者ギルドに所属している事もあって、指名依頼となったみたいだ。

 ま、課外活動だと思えば腹も立たんし、何より指名依頼の形にしてもらえたわけだから、俺には報酬と貢献値が入って来る。文句を言える筋合いじゃないな。



 ********



 ~Side ナイジェル~


 街道沿いにスノーギガスが出たらしいっていうんで、ギルドからの依頼で雪掻きに出向く事になった。スノーギガスを狩るなんてのはまだ無理だが、俺みたいな見習いにだって雪掻きの手伝いくらいはできる。何より小遣い稼ぎのチャンスだしな。


 どうもこの仕事、国からのお声掛かりらしくって、王立学園の生徒は参加するのが〝望ましい(・・・・)〟んだとか。……さすがに上級生が優先みたいだが。

 貴族連中が真っ先に呼ばれるんじゃないかと思ってたんだが、付き合いの先約が動かせないやつらが多いらしくて、俺たちみたいな平民にまで声が掛かったみたいだ。俺にお呼びがかかったのは、火属性の魔法が使えるって事もあるんだろうけどな。

 まぁ、荒事は大人連中に任せて、俺らみたいなガキは温和(おとな)しく雪掻きでもしてりゃいいだろうと、雪の降る中を気楽な気分で出かけたんだが……


「よぉナイジェル、お前もお呼びがかかったのか。休日出勤でご苦労な事だな」


 ……奇天(きて)(れつ)な、しかし温かそうな格好をしたネモがいた。


 いや……Aクラスにはいても俺と同じ平民の筈だし、あれで全属性持ちだから火系統の魔法も使える筈だし、冒険者ギルドで働いてるって話もあるし……あれこれ考え合わせると、この依頼を受けてても不思議じゃないんだが……ネモが雪掻きごときに現れるというのは予想してなかった。


「まぁな。ネモも雪掻きに呼ばれたのか?」

「あー……多分そうなるとは思うんだが……正直言って何をやらされるのかは、ギルドからの指示次第だからな」

「あぁ、ネモの場合は警戒役という可能性もあるか」


 ネモは変なスライムをテイムしてるからな。スライムの鋭い感覚なら、スノーギガスの接近を感知する事もできるかもな。



・・・・・・・・



 ……警戒役ならあり得るかと思ってたんだが……甘かった。あのネモが、ただの「警戒役」に甘んじる筈なんて無かったんだ。


 スライムの感知能力であっさりとスノーギガスの居所を見破ると、【施錠(ロック)】で雪ごと固めて、そのまま【収納】して終わり。


「……こんなのは断じて討伐じゃねぇ……」


 知り合いのおっちゃんが(つぶや)いてたけど……俺も心の底からそうだと思う。

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