第五十四章 雪山惨禍 7.救難要請~第二幕~
~Side エル~
クィントン様がカルベイン様とマース様をお連れになって、女だてらに勇ましく出陣なさってから暫く経って、新たに救難の要請が届いた。山間の村が雪に埋もれ、通行も難儀になっているという。
魔法持ちはすっかり出払ってしまい、動けるのはここにいる俺たちしかいない。
アスラン様が出向くとおっしゃったんだが、外交上それは拙いとマヴェル様がお止めになった。……まぁ、アスラン様の正体は別としても、他国の貴族を雪掻きに出して自国の王子は屯所で温々……というのは外聞が悪いというのは俺にも解る。出向くのがレンフォールのお嬢様でもそれは同じで、〝他国の貴族〟が〝年端もいかない少女〟に変わるだけだ。
「だったら俺が出るか?」
「いや……それもまた……」
ネモを出した場合、形式的には〝平民の子供を雪掻きに……〟となるらしい。俺には笑い事にしか思えないんだが……あのネモが、そんな殊勝なタマなもんか。
どちらかと言うと、〝ネモを一人で行かせた場合、何をやらかすか解らない〟――というのが皆の本音だろう。そっちなら、俺も心の底から納得できる。
で――結局は全員で行こうという事になった。まぁ、いつもの事だ。
ただ……現場の地形を訊ねたネモが、難しい顔をしていたのが気になるな。ここ暫くの雪の降り方や天気についても訊ねていたようだが。
・・・・・・・・
暫く馬車に揺られた後で、何とかいう現場の村――村の名前はききそびれた――に着いた。途中の道も或る程度までは雪掻きしてあったんで、馬車が使えたのは幸いだったな。
――で、俺たちの仕事は基本的に雪掻きだった。
この辺りは例年雪が積もるんだそうだが、今年はいつもより雪の日が多かったとかで、雪掻きや屋根の雪下ろしが間に合っていないらしい。このままだと往き来にも難儀するし、屋根から落ちて来た雪で怪我をする事もあると言うんだが……こんな雪でどうやったら怪我なんかできるんだ?
そう内心で訝っていたら、
「いや、温和しくサラサラと落ちて来るだけなら問題は無ぇんだがな、大抵は一塊になってドカッと落ちて来るんだ。まぁ、デカい雪玉を投げ付けられるようなもんだな」
……なるほど。それは痛そうだ。
納得できたので作業に移ったが……この雪ってやつ軽そうに見えて、いざ取り除こうとすると結構腰にくるな。……考えてみれば、こういう身体の使い方をした事はほぼ無かったからな。
適宜休憩を入れつつ、アスラン様ともども作業に励んでいたら、緊迫した様子の村人の声が耳に入った。
「……の爺様が?」
「あぁ、道さ雪で塞がってて、連絡付かねぇだ」
「出て来たような足跡、残って無から、家ん中さいると思うけんど……」
「あっこはなぁ……」
何か面倒でも起きたのかと聴き耳を立てていたら、やはり不審を抱かれたジュリアン殿下が事情をお訊ねになった。その結果判ったのは、
「山小屋の老夫婦と連絡が取れない?」
「へ、へぇ。あん二人が住んでる小屋っつうのが、ちと危なっかしい場所にあって……」
元々住んでいた家を息子夫婦に譲って、村外れの小屋に移ったらしい。どうせ老い先短い年寄りだからと言って。
ジュリアン殿下は救出に行く事を決められたが……その後ろでネモが盛大な顰めっ面をしてるのが気になるな。
サスペンスの予感が高まってきました。




