第五十四章 雪山惨禍 6.救難要請~第一幕~
~Side レスリー・クィントン~
サクシルの町に着いた翌日、私たちは町の宿屋に開設された雪害対策本部へ赴いたのですが……
「……僕らだけ、こんなに暇してていいのかなぁ……」
忙しなく出入りする騎士の方々を目にして、所在無くただ座っている事に罪悪感をお感じになったのか、ジュリアン殿下がそう呟かれました。ですが、
「周りの状況が把握できていない段階で、軽々しく動くのはお薦めできません」
「マヴェルの言うとおりだぞ、フォース。それに、仮にも王子であるお前が動くと、護衛のために人数を割かなきゃならんだろうが。目に見えて人手不足だってのに、そんな真似ができるか」
マヴェル様とネモ君が相次いで窘めていました。……まぁ、殿下の護衛に付けられた方々は、基本的に殿下の傍を離れられない筈なので、雪害対策の頭数に入れるのは無理だと思うんですけど。
「けどなクィントン、逆に言えばそいつは、フォースを現場に派遣すりゃ騎士さんたちも付いてくる――って事だろうが」
「まぁ……それは」
侍衛の騎士の方々は苦笑いしておいでですけど、まぁ間違ってはいませんね。
「ま、今のところはマヴェルの言うとおり、黙って現状把握に努めるのが最適解だな」
・・・・・・・・
暫くネモ君の言う〝現状把握〟に務めていると、今の状況というのが大分判ってきました。
大規模な積雪によって各地で交通が寸断され、被災地からの救難の要請も届かない状況になっているため、騎士団が中心となって交通の復旧に当たっているようです。
事態は急を要するので、人力だけでは間に合わないと、火魔法をはじめとする魔法持ちが大勢動員されています。風魔法で雪を吹き散らすとか、身体能力を強化して作業の効率を上げるとか……魔法が使えると色々便利ですもんね、うん。
私たち魔導学園生の派遣も、それを見越しての事なんでしょう。ドルシラ様と私は火属性、マヴェル様は火属性を含む三属性、エリックは――馬鹿のくせに――四属性持ちで、リンドローム様とネモ君に至っては全属性持ちだもんね。駆け出しの割には使える陣容と言えるんじゃないかしら。
ただまぁ属性は属性として、私たちには経験ってやつが圧倒的に足りてない。殿下のお立場の事もあるしで、現場から一歩離れた位置で傍観に徹していたんだけど……もはやそうも言ってられない状況になってきてる。
山沿いの道路の一つが、斜面から崩れ落ちてきた雪に埋まって不通になったのよね。ネモ君は「全層雪崩」って言ってたけど。
幸か不幸か、斜面に積もってた雪が全部崩れ落ちて来たんで、新たな「雪崩」が発生する危険は少ないみたい。けど、道路が使えないのは厄介だし、急いで対処する必要があるんだけど……火魔法持ちの人がぜ~んぶ出払っちゃってるのよね、これが。残ってるのは私たち「魔導学園」の学生だけ。ここで活躍しないでどうすんのよ。父親だってそう言うだろうし。
「火魔法持ちという事で、私が向かってもいいのですけれど……」
「いえっ! ドルシラ様のお手を煩わせるわけには参りません(キリッ)! 不肖この私が出向きます。エリックとロドニーを連れて行けば間に合うでしょう」
危険な外にドルシラ様を出すなんて、とんでもない。寒さでドルシラ様のお手が荒れたりしたらどうすんのよ。お馬鹿のエリックと、エリック遣いのロドニーを連れてけば、雪掻きなんてどうにでもなるわよね。
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「……お前って、レンフォール様と俺らの前じゃ、態度が全然違うよな」
「化けの皮ってのは、相手を見定めてから被るもんなのよ。……余計な事を喋ったら、本気で承知しないからね?」




