第五十四章 雪山惨禍 5.とある女子生徒の事情
~Side レスリー・クィントン~
凛々しいドルシラ様のお姿を想い浮かべつつ、気の進まない学園の課題を熟していると、父親からの緊急の呼び出しです。
神聖不可侵の日課――勉強の方ではありません――を邪魔してくれたクソ親g……父親に内心で毒づきながら、「執務室」――と、父親は言っていますが、中で何をやっているのか知れたものではありません――を訪れたところ……
「ジュリアン殿下の雪害対策に同行……ですか?」
「そうだ。この積雪で山奥の住人が難儀しているらしく、国とギルドで救援を差し向ける事になり、その責任者に殿下が選ばれた。既にレンフォール公爵家をはじめとする数家が同行を表明している。当家としても、ここで後れを取るわけにはいかん」
力む父親を取り鎮めて、もう少し踏み込んだ事情を訊いてみると、レクター閣下の派閥で今回の視察に同行できるのは、どうもうちだけのようでした。そりゃ、この父が力瘤をこさえるわけです。勢力争いから一歩抜け出す好機ですしね。
「それに今回の視察には、あのネモという少年も同行するらしい。冒険者ギルドに指名依頼を出したと聞いた」
あー……ネモ君……うちのクラスの「裏組長」がお出ましになるのかぁ……
だったら変な騒ぎは起きようが無いし、その点では気楽と言えば気楽よね。あれで結構面倒見が良いし。
「あの少年の事はレクター閣下も気にしておいでのご様子だからな。その意味でも好機と……言えん事も無い」
まぁ、ネモ君の立ち位置は色々とややこしそうだものねぇ。
ドルシラ様やジュリアン殿下と同じ班だし、てっきり王家派に取り込まれたのかと思っていたら、何かレンフォール伯爵――ドルシラ様のお祖父様――が不手際をなさったとかで、公爵家との間が微妙になってるとか聞いたし。しかもネモ君ってば、どういう経緯があったのか、レクター閣下――我がクィントン子爵家の寄り親――とも親しいみたいなのよねぇ……父親がやきもきするのも道理だわ。
……まぁ、ネモ君に関しては、父親も少し腰が引けてるみたいだけど。
「視察にはレンフォール公爵家のドルシラ嬢も同行するそうだ。ここで後れを取るわけにはいかん」
ま、父親の下心はともかくとして、ドルシラ様とのお付き合いを深める機会があるとなれば、これを逃す手は無いわよね。
「畏まりました、お父様。全身全霊・全精力を傾けてでも、ドルシラ様とのお付き合いをもぎ取ってご覧に入れましょう」
「う、うむ……どちらかと言えばネモ少年との伝手の方が望ましい……ような気が――そこはかとなく――しないでもない……のだが……その辺りはお前の判断に任せる」
「お任せ下さい、お父様」
「あと……くれぐれも、その『猫』を脱ぎ捨てるでないぞ?」
おほほほ……嫌ですわお父様。何をおっしゃっておいでなのかしら。
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最終的に今回の視察に参加できたのは、ドルシラ様の班――班長はネモ君――の他には、エリック・カルベインとロドニー・マース、それに私という事になった。
女子は私とドルシラ様の二人だけという事で、基本的に私はドルシラ様と一緒に行動する事になった。――グッジョブ! 裏組長!
エリックはロドニーと一緒に行動する事になった。この二人はクラスでも同じ班に所属してて、普段からロドニーがエリックの尻拭いをしてるしね。
エリックが何かブツクサ文句を並べてたけど、〝俺に命令されるか、気心の知れたやつの指示に従うか、好きな方を選べ〟――と言われて納得したみたい。
……まぁ……物凄く説得力のある殺し文句だったものねぇ……
レスリー・クィントンはクィントン子爵家の次女で、ネモと同じ一年Aクラスの女生徒です。ドルシラの熱狂的な崇拝者でもあります。家の外では――特にドルシラに対しては――巨大な猫を被っていますが、親兄弟など一部の者には本性がバレています。独白も最初のうちは丁寧な口調ですが、段々と崩れていくのが彼女のデフォです。




