第五十四章 雪山惨禍 2.異世界防寒着事情(その1)
~Side ドルシラ~
学園の門前で待ち合わせていた私たちの前に現れたネモさんは、粋という言葉に相応しい出で立ちでした。舞踏会の時といい、ネモさんの衣装は他と一味違っていますわね。
本日のネモさんの出で立ちは……
「上はいつものケープ付きマントだけど……その帽子はちょっと変わってるね?」
「あぁ。雪深いって聞いたんでな。自前の帽子を被って来た。ヴィクは懐に仕舞ってる。寒さで動きが鈍るといけないんでな」
『だいじょうぶだって いったのにー』
……懐のヴィクさんは不満そうですわね。
けど――ネモさんが今被ってらっしゃる帽子、そっちも随分と新機軸ですけど……不思議とマントに似合っていますわね。前後に庇があって……天辺にリボン? ……いえ、能く見るとただの飾りじゃありませんわね?
「あぁ。こいつはこうやって解くと――」
「あら」
「へぇ……耳当てになるんだね」
……確かに、あれなら耳も冷えませんわね。女性は髪で耳を覆う事ができるのでまだ大丈夫なのですけど、お父様やお祖父様は嘆いておいででした。……あの帽子、ネモさんはどこで手に入れたのでしょうか。殿方たちも興味津々のご様子ですわね。
「ネモ、その帽子はどこで手に入れた? スカイラー商会か?」
「いや、こりゃ俺の祖父さんのとこで扱ってるやつだな」
「ネモ君のご祖父というと……?」
「あぁ、ウォルティナの町で店を構えててな」
「ネモ、その耳当てだが、音が聞こえにくくなったりはしないか?」
「まぁ、多少はな。けど、俺の場合はヴィクがいるし――」
……そうでしたわね。ヴィクさんの感知能力があるのなら、常人の聴覚など問題になりませんわね。質問を斜め方向に躱された形のエルさんは微妙な表情ですけど、
「――それに、耳当てをするのは吹雪の時くらいだ。そもそも酷い吹雪の中だと、音なんざあまり聞こえんしな」
「ふぅん……そういうものなのか?」
あぁ……エルさんとアスラン様はご存じないかもしれませんね。今回の参加も、王……貴族としての矜恃だけでなく、雪害というものを見てみたいという事もおありだったようですし。
「一応、ネモ君の防寒着も用意してきたんだけど……」
あら、そうでしたわね。ネモさんにご無理を押し付ける事になったので、ネモさんの分の防寒着は、国で用意する事になっていました。けど……不要みたいですわね。
「ま、一応は自前の分を用意してきたからな。向こうへ行って、自前の衣服で無理そうだったら、そん時ゃありがたく使わせてもらうわ」
……ネモさんは〝用意してきた〟とおっしゃいましたけど……そのマントの事ではないのでしょうか? 私は厚手のマントで済ませるつもりでしたけど。
「……ネモ君の〝用意〟というのは、そのマントの事だけじゃなさそうだね?」
「あぁ。どんだけ寒いところか判らんのでな。目一杯の防寒着を準備してきた。幸い俺には【収納】があるんでな。荷物の事は気にしなくていい」
「羨ましい話だ……」
「確かに……ネモ君なら天幕くらいは用意してそうだね」
「ん? 当然【収納】してるぞ?」
〝冒険者ギルドの職員としては当たり前だろう〟――と、ネモさんはおっしゃいますけど……〝当たり前〟ではないと思います。えぇ、決して。
「……帽子一つにそこまで気を遣ってるネモの事だからな。防寒着というのも相当なものなのだろうな」
「単に魔獣の毛皮を加工しただけだ。お前らのように【付与】付きの贅沢品じゃねぇよ」
ネモさんはそうおっしゃいますけど、【付与】無しで充分な寒さ対策ができるというなら、軍も冒険者も挙って欲しがると思いますわよ?
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。




