第五十四章 雪山惨禍 1.ギルドからの呼び出し
~Side ネモ~
新年祭三日目となる今日。
本日はどこをぶらついたものか、できればアグネスと鉢合わせしないコースを……なんて思案していた俺のところに、ギルドからの呼び出しがあった。
……新年祭最中の呼び出しだなんて、絶対碌なもんじゃない。
折角泉の神様にお願いしたのに、聞き届けては下さらなかったのか。……やっぱりヴィクの言ったとおり、【願力】に頼るべきだったか?
それとも……実質的に〝新しい年〟が始まるのは新年祭の後だからって、その前に駆け込みでトラブルを押し付ける気じゃないだろうな?
疑心満々でギルドにやって来て、サブマスのミュレルさんから話を聞いたんだが――
「はぁ? 生徒の引率?」
「まぁ、実質的にはそんな感じだね」
――聞かされた説明ってのは、傍からすれば力の抜けそうな話だった。
「山奥の方で雪が積もって、住人が難儀しているらしくてね。国とギルドで救援を差し向ける事になったんだけど、その責任者に王族を付ける事になったんだよ。まぁ、名目上の――だけどね」
要するに王家の人気取りか。で、その貧乏籤を引いたのが――
「うん。ジュリアン殿下というわけだね」
それだけならジュリアンとコンラートの二人が苦労すりゃいいだけだが、仮にも王族が部隊を率いて救援に向かうというのを、ただ指を銜えて眺めているのも外聞が悪いって事になって、
「お嬢……レンフォール公爵家をはじめとする貴族たちが、尻馬に乗ろうと参加を表明した――と」
「そういう事だね」
それだけなら俺の出る幕は無さそうに思えるんだが、
「個々の家の力関係は別として、貴族家の子女が集まると、派閥が……ね」
その参加者というのが、揃いも揃ってクラスメイトなんだと。どいつもこいつも親から参加を命じられた口らしいな。
つまりそれで――
「面倒な事態を避けるためには、派閥とは無関係の秩序……要するに、学園内の序列を持ち出すのが手っ取り早い。で――フォースやお嬢を班員に抱えているって事で、俺のとこにお鉢が廻って来た――と?」
「そういう事だね」
全く……案の定厄介事じゃねぇか。泉の神様の御利益も当てにならねぇな。……いや……悪神様の「加護」がそれを上回った可能性は……あり得るか?
「まぁ、国の方でも面倒を押し付けたという自覚はあるらしくってね。その分報酬は張り込んだみたいだよ」
ミュレルさんに見せてもらった報酬の額は、確かに破格の値になっていた。まぁ、これくらいの役得が無きゃ、やってられないよな。
「俺が面倒を見るのは誰になるんです? 班の連中だけですか?」
「あ、いや……ネモ君の『班』の構成を知らないんだけど、多分違うと思う。さっきも言ったように、貴族家数家が参加を表明しているわけだから」
耳聡い貴族だけが情報をキャッチして、即座に子供を送り込んで来たって事か。
参加者名簿ってのを見せてもらったんだが……うちの班員は勢揃いかよ。フォースやお嬢、コンラートはともかく、アスランやエルまでご苦労なこった。
で、それ以外はというと……エリックのやつが参加するのか。他は……ロドニー・マース? ……あぁ、エリックと同じ班で、ストッパー役を押し付けられてるやつか。……よし、エリックの世話はこいつに押し付けよう。
それと……レスリー・クィントン? ……あの物怖じしない女子か。俺にも割と早くから声をかけてきたんで憶えてる。確か……実家はレクター侯爵の派閥に属しているくせに、個人的にはお嬢の崇拝者。にも拘わらずジャムの時には、お嬢を追い詰める側に廻ったという〝良い性格〟をしてたっけな。……こいつはお嬢に任せときゃいいか。
多少面倒が増えるみたいだが……ま、国からの依頼って時点で断る選択肢は無いわけだし、仕事の内容も単なる引率だ。顔見知りのやつらを数人引っ張ってきゃいいだけだから、そこまで面倒な事にもならんだろ。
それに第一、ゲームにゃこんなイベントは無かった筈だ。という事は適当に動いても、ヤバげな展開になる事は無い……って事だよな?
……そう考えて依頼を受けたんだが……後になって、俺は時分の浅はかさを呪う事になった。
年内の更新はこれで最後とさせて戴きます。来年の更新は一月三日からを予定しています。
それでは、よいお年をお迎えください。




