第五十三章 新年祭(二日目) 1.思わぬ再会×2
~Side ネモ~
新年祭の二日目、朝っぱらから響く歌声――多分夜っぴて歌ってたんだろうな――で目を醒ました俺は、朝食後ヴィクと一緒に「フクロウの巣穴亭」を出て、フラリと広場の方に向かったんだが……呆れた事に、朝っぱらから営業してる露店が結構ある。……いや……違うな。朝っぱらから営業してるんじゃなくて、夜っぴて営業してたんだな、あれは。
……そう言やぁコンラートのやつが、歌や踊りを休み無く奉納しなきゃどうとかって言ってたよな。夜通し起きて歌ってる連中がいるから、店も夜通し営業してるわけか。……ご苦労なこった。
『マスター きょうは どうするのー?』
『さて……どうするかな』
ヴィクから今日の予定を訊かれたが、特に決まった予定があるわけじゃないしな。適当にその辺をぶらついてみるか。
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適当に出店を冷やかしながら、当てもなくブラブラと歩いてたんだが……チビっ子どもが並んで歩いてるのを遠目に見つけた。大きな袋をブラ提げて、道々何かを拾って歩いてるみたいだが……あぁ、そう言や孤児院を訪問した時、アグネスのやつが言ってたな。祭の時に出たゴミは、毎年子どもたちが片付けてるんだって。うむ、感心なガキどもだ。
『……マスター なにか きこえなーい?』
『うん? 何か……?』
ヴィクに言われて耳を澄ませてみれば、遠くから子どもの歌声が聞こえてきた。多分ゴミ拾いのチビっ子どもだろう。楽しげなその歌声は――
「「「「「……ン、狸のキ×玉は~♪」」」」」
俺は即座に回れ右すると、ダッシュでその場を離れたとも。ガキどもの監督役なのか、アグネスらしい人影が見えたからな。
歌の件について俺が非難される謂われは断じて無いが、それでも目を合わせると碌な事にはならんだろう。
『……ここまで来れば大丈夫か?』
『おってきてるやつは いないよー』
アグネス(仮)に見つからないくらいに距離を取ったのはいいんだが……弱ったぞ。前にアグネスに聞いたところじゃ、ガキどもはあちこち廻ってゴミを回収するって話だ。それはつまり、俺がどこにいても出会す可能性があるって事だ。
『そとにでも にげるー?』
いや……自分が保証人になるから、日帰り程度の距離なら構わず外に出ろ――って、ネイトさんが言ってくれてたから、城壁の外で熱りを冷ます手はあるんだが……けどなぁ。
門衛に外出の理由を説明するのに、シスターに見つからないため――ってのは、いくら何でもアレだろう。他に何か尤もらしい理由があれば……うん? ……待てよ?
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「よぉ坊主、朝っぱらから妙なとこで会うじゃねぇか」
手頃な口実を思い付いて門に向かっていた俺たちに声をかけてきたのは、特務騎士団のバンクロフツ隊長だった。
「お早うございます。今日は非番ですか?」
「おぉよ。出来の良い部下のお蔭で――な」
……上機嫌で言ってるが……どうせ仕事を部下に押し付けて、体良く逃亡してきた――ってところだろう。眼の奥に一瞬だけ疚しさの色が見えたからな。
で――隊長が言ってる〝妙なとこ〟ってのは、〝南門に向かう途中の位置〟って事だろうな。【収納】スキル持ちの俺は、許可無く王都を離れられない事を言ってるんだろう。
「あぁいや、その件についちゃ話は聞いてる。お偉いさんが坊主の保証人になるって話もな」
あー……レクター侯爵、早速手を回してくれてたのか。仕事が速いってぇか……頭が上がらないよなぁ。




