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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第七章 初めての武闘会 1.刺客

 ~Side ネモ~


 平日の日課のようになっている冒険者ギルドでの受付業務(アルバイト)を終えて宿へ向かっていた俺は、人通りの無い路地の方から聞こえてくる物音に足を停めた。面倒事の予感がするが、仮にも冒険者ギルドでアルバイトをしている身としては、何が起きているのかの確認くらいはするべきだろう。ヤバそうだったら全身全霊傾けて逃げ出せばいい。そう考えて足を向けた先では……


 ――燃えるような赤毛をした同じ学校の一年生が、人斬り包丁を振り回していました。


 う~ん……どうしたもんかね、これは。

 「プレリュード」におけるレオ・バルトランという生徒は、(いささ)戦闘狂(バトルホリック)の気はあるものの、サイコパスとか殺人狂ではなかったような気がする。

 とすると……レオが貴族の三男坊だという事も考慮すると、刺客に襲われていると考えるのが妥当か?

 そんな状況を()の当たりにしながら俺が落ち着き払っているのには、それ相応の理由がある。……もう終わりそうなんだよ、チャンバラ。子供とは言えあの(・・)レオ・バルトランだからな。並みの刺客じゃ相手にならんわ。


「どうした? もう終わりか?」


 ――ほらな?


「……クソっ! 貴族め! 貴様らのせいで……」

「ほぅ? 俺のせいで何がどうしたと言うつもりだ? 言ってみろ。(いま)()(きわ)の遺言ぐらい聞いてやるぞ?」


 ……完全に悪役の言い草だよな。あれで本編じゃ主役の一人だってんだからなぁ……


「……貴様ら貴族が美食を(むさぼ)っている時に、俺たちが何を食ってきたのか解るか!? 小麦のパンなど食べる事もできず、毎日毎日ライ麦のパンを……」

「……あ゛?」

「「――え?」」


 ……この殺し屋野郎、今、何て言った?


「毎日毎日ライ麦のパン――だと?」

「な、何だ、お前は!?」

「お前……確か、Aクラスの……?」


 ……(こん)(じょう)の俺が生まれ育ったウォルトレーン地方ってのは、土壌条件の関係なのか、麦類が育ちにくい土地だった。僅かばかり穫れる麦は全て年貢に廻し、ライ麦のパンなんか祭りの日でもなきゃ食べられなかった。

 うちが特に貧しいというわけじゃなかったが、食べるものはと言えば(ひえ)(かゆ)と芋の毎日。母親が料理上手だったからそんなものでも美味かったし、後になって野生の米を見つけてからは、転生日本人としての食生活は充実していたと言える。

 けど……それはそれとして……


「……自分だけが不幸だなどと、思い上がった了見を抱え込みやがって……」

「う……あ……」

「貴様が毎日ライ麦のパンを食べている時……雑穀で餓えを凌いでいる者、いや、それすら満足に食べられない者がいる事は知らんぷりか……?」

「ひっ……」

「貴様……何様のつもりだ……? あ゛ぁ?」

「…………ひくっ!」


 ……あ……つい【眼力(がんりき)】が発動してたみたいだな。刺客っぽい男、泡を吹いて伸びちまったよ。……仕方ねぇ、冒険者ギルドから渡された呼び子笛を吹いて、見廻りの兵士を呼ぶとするか。……レオにも一言断っておくべきだろうな。



 ********



 ~Side レオ~


 剣術の師匠がぎっくり腰を悪化させて寝込んだというので見舞っての帰り、妙なチンピラに襲われた。貴族の三男坊なんかやってると、こういう風に狙われるのにも慣れてくる。腕の方は大した相手じゃなかったが、逃げ足の速そうなやつだったから、捕り押さえて背後関係とかを喋らせるのは無理かと思っていたんだが……いつの間にか同じ学園の一年生がチンピラの退路を断っていた。話した事は無かったが、確かネモとかいう名前のAクラス生で、入学早々に下司(げす)な同室者を心臓麻痺にしたとかいうやつだ。

 位置取りを見た限りだと、万一の事があったら加勢してくれるつもりだったようだ。腕前を見て介入は不要と判断していたんだろうが……何か、チンピラが口走ったライ麦パンの事が(かん)(さわ)ったらしい。洒落(しゃれ)にならない魔力を放ちながら威圧してきた。


 ……相手が俺じゃなかったのは幸せだった。あんな威圧に(さら)されたら、俺だって正気でいられたかどうか自信が無い。チンピラも泡を吹いて卒倒してたしな――死んではいなかったようだが。

 入寮早々に馬鹿が心臓麻痺起こしたって聞いた時は眉唾だと思ったんだが……世の中、おっかないやつってのはいるもんだ。


 結果的に、チンピラの身柄を警衛の兵士に渡す事ができたんだが……ネモのやつが乱入した理由がなぁ……俺の身の安全って、ライ麦パンより下なのかな……? 何か釈然としないと言うか……ぶっちゃけ少し凹むわ。


 あぁ、釈然としないと言えばネモのやつ、食堂では当たり前のような顔で白パンを食べてなかったか? 随分と食べ慣れているように見えたんだがな……?



 ********



 ~Side ネモ~


 次の日アーウィン先生に呼び出されて教官室に行くと、Bクラスのレオ・バルトランが待っていた。昨夜(ゆうべ)の事で礼を言われたので当たり障り無く返答していると、アーウィン先生が刺客の背後関係について教えてくれた。

 チンピラは俺の【眼力(がんりき)】で既に心が折れていたらしく、問われるままに色々な事を白状したらしい。それによるとレオが狙われたのは、(きた)る大武闘会におけるエキシヴィジョンマッチに出場する事と関係しているようだ。レオが所属する道場の戦力低下を狙って、怪我をさせようとしたらしい。

 依頼者は自分の()(じょう)を隠したかったようだが、刺客(チンピラ)はチンピラなりに臭いと思ったらしく、きっちりと依頼者の()(じょう)を調べ上げていた。……レオの剣術の師匠と競合関係にある道場の関係者だった。


 ――この時、俺は気が付いた。


(あ……これ、道場対抗戦のイベントか……)

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