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第五十二章 新年祭(初日) 3.王城での会食

 ~Side ジュリアン~


 新年祭の式典が終わった後も、僕らはあれやこれやと七面倒な挨拶(あいさつ)に忙殺される羽目になった。まだ学生の身なのに――と思わないでもないが、これも王族に生まれた責任というやつだろう。……ローランド兄上も、この「責任」からは逃げられなかったみたいだ。式典での挨拶(あいさつ)を欠席――ネモ君は〝ブッチする〟と表現していたな――した(かど)でも(とが)められていたけど。

 僕や兄上はともかく、コンラートは僕らの巻き添えになったようなものだから、少し申し訳ない気もするけど。


「いえ、どうせ宰相の孫なんて、因果な立場に生まれましたから」


 ……うん、コンラート。僕に気を(つか)ってくれてるのは解るけど、宰相が嫌な目付きで君の方を(にら)んでるからね。〝口は災いの門〟――って、ネモ君も言ってたし、君も少しは気を付けた方が良いと思うんだ。



・・・・・・・・



 そんな面倒な付き合いも一段落付いて、関係者だけで軽い夕食の席に着いた。


 新年祭の事や今年の抱負などについて話していた時に、ついでだからネモ君が言っていた「王都の個性」という事についても話しておいた。正式に奏上する程の事でもないし、だけど話は通しておいた方が良いだろうしね。あの場にはレンフォール嬢もアスラン殿下も居合わせたわけだから、王家だけが出遅れるような事になっては問題だし。


「ほぉ……『王都の個性』のぉ……」

「必要かどうかは別にして……そういう視点は持った事がありませんでしたね」


 国王(ちちうえ)王太子(アルマンドあにうえ)も感心の(てい)だ。各国の王都を見較べて比較する――なんて事ができる者がどれだけいるかは判らないけど……他国の使節なんかは、その稀な一部に入るだろうし。


「……冬虫夏草(プラントワーム)の件は却下だとしても、一考に値する考察のようだね」

「だが――口で言うのは簡単だが、それを実行に移すとなると……」


 理念はともかく実行は困難――というのが父上の見解だ。僕もそれには同意するけど、放置していい問題でもないと思う。


「……実行云々の前に、まず『王都の特色』とやらが()(へん)にあるか、それを考えてみる方が良いかもしれませぬ」


 宰相の指摘を受けて、話は少し現実的な方向に進む事になった。……宰相のこういうところには、「年の功」というものを感じざるを得ない。


 それはともかく――王都オルソミアの、或いはこのオルラント王国の特色と言えば……


「それはやはり、水の恵みが挙げられるかと」


 コンラートがそう口にしたけど、僕もそれには同感だ。アスラン殿下やエルメント君が(しき)りに(うらや)ましがってたからねぇ。


「ふむ、となると……水路の整備でも検討するか? (しゅん)(せつ)とか」

「橋の補修でもいいかもしれませんね」


 王都の()ぐ傍にも川が流れていて、民の生活用水や農業用水にも使われるから、水を汚したり美観を損ねるような事は禁止されている。

 この川は王都に恵みをもたらしてくれる一方で、何年かに一度は氾濫(はんらん)して水害をもたらす事もある。

 王都の近くでは、水路もそれなりに(しっか)りした造りになってるけど、それでもそろそろ(ほころ)びが目立つようになってきている。好い機会と言えばそうなんだろうな。


「……それにしてもネモとやらは、色々と面白い視点と知見を持っておるようだな。一体どこで身に着けたやら」


 うん、僕も……僕たち(・・)も、それには深く同意する。

 レンフォール嬢がしょっちゅう突っ込んでいるけど、毎回ネモ君にスルリと(かわ)されている。……あの見識が全て、湖水地方で生活するだけで得られるんなら、学園はあっちに移した方が良いかもしれない――そういう話まで出てたからね。……ネモ君は断固反対してたけど。


「そのネモですが……部下が面白い事を報告して参りました。イズメイル道場の奉納演武に出場して、フレイルの型を見せたとか」


 ……思いがけない宰相の言葉に、僕もコンラートも、危うく口の中のものを吹き出すところだった。

 ……コンラートは青筋を立ててるけど……ローランド兄上は悔しそうにしているな。


「コンラート、お前は知っておったのか?」


 宰相はコンラートの方を向いて訊ねているけど、あの質問は僕にも向けられているんだろうな。

 けど――断言するけど、ネモ君からは何も聞かされていない。


「いえ、初耳です。……ですがネモの事ですから、新年祭の露店を見物している()(なか)に、偶々(たまたま)イズメイル道場の者と出会い、そのまま成り行きで演武を引き受けたのではないかと」


 うん……確かにネモ君ならやりそうな話だ。……コンラートも()くネモ君の事を理解しているな。


 それにしても……イズメイル道場かぁ……


 そりゃ確かに、不用意に貴族と縁を繋ぐなとは言ったけど……イズメイル道場は確かに貴族ではないけど……


 この件でネモ君とイズメイル道場の繋がりは、強く印象付けられる事になる。それを騎士団関係者がどう受け取るか。……バルトラン君を襲った者について、騎士団との繋がりが云々(うんぬん)された事もあるし、あの件は未だに解決してはいないからなぁ……


 ……レクター侯爵はどう出るのかな?

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― 新着の感想 ―
騎士団からの突き上げが激しくなるなー。バカのせいで騎士団が出遅れてんだぞ、忖度なんかで操作が進まんのなら関係者を斬ってくる、とか言われそう
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