幕 間 異端児見極め隊 3.対人マナー
~No-Side~
王国始まって以来ではないかと噂される異端児ネモ。ひょんな経緯からそのネモを迎える事になったオルラント王国の王城では、ホストとなる王宮関係者が、そのネモの一挙手一投足を注視していた。
・・・・・・・・
「あれは……リスカー伯爵家の次男坊か?」
「彼の少年と相対するには、ちと力不足の観がありますな」
「うむ。完全に気圧されておるな、あれは」
「位負けの見本のような格好ですな」
居並ぶ一同の目の前では、リスカー伯爵家次男・エドマントが、妹であるシェルミーネに連れられて、ネモに引き合わされたところであった。
何しろ背丈に始まって、強者のオーラでもバックの絢爛さでも後れを取っているだけに、エドマントは最初から腰が引け気味になっている。
これがネモ以外の相手であったなら、〝たかが平民に気圧されるとは情け無い〟となったのであろうが……何しろ相手はあのネモである。過ぐる五月祭の折には、大陸七剣の一人・剛剣アレンと互角の勝負を演じた程の相手なのだから、〝たかが騎士学園の生徒〟ごときにどうこうできる相手ではない……というのが支配的な意見となっていた。ゆえに、エドマントを気の毒がる声はあっても、批判する声は皆無であった。
「次男坊としては健闘した方かと」
「ディオニクスを上回る強者を前にして、腰を抜かさなんだだけ立派でしょう」
「それよりも……」
――と、ここで話題はネモの方に移る。
「……格下を相手にしても、驕った様子は見せませぬな」
「それは弟も言っていたな。言葉に乱暴なところはあっても、粗暴な振る舞いをした事は無いと」
「ふむ……学園の教師に対しては、相応の礼を以て振る舞っておるとの報告も受けておる。礼を失した振る舞いに及ぶ事は無い。……そう見てよかろう」
「相手が圧倒されているのは……あれは威圧になるのでしょうか?」
「うむ……」
ここで一同は難しい評価を迫られたが、
「……少なくとも当人には、威圧しているという意識は無いようであるし……」
「慇懃無礼なところも無いようですな」
「確かに次男坊は気圧されておりますが……」
「あれをして、ネモとやらが威圧している――と誹るのは不条理かと」
「うむ……」
取り敢えず、マナーの点でも非難するには当たらないだろうとの合意に達する。
「そもそもあれは【威圧】なのですかな?」
「その手のスキルは持っておらんそうだが……」
「してみると、彼のあの威圧……と言うか威厳は何に由来すると?」
「スキルでないとすると……生来の素質であるとしか……」
「と言うか、あの『目力』によるとしか考えられまい」
ここにいる者の多くは、ネモと直接顔を合わせた事は無い。しかし、ネモの目付きに関しては、各方面からその評判が届いている。
「……だとすると……難癖を付けるのも難しいの」
「顔の造作を云々する事になりますからな」
そんなのは最早マナーの領域ではないだろう。難癖を付ける事こそマナー違反である。
「……マナーと言えば……あのスライムのマナーこそ、見るべきではないかと」
「礼儀正しく振る舞ってるよねぇ……」
「軽食を前にしても、きちんと温和しくしておりますな」
勝手に触手を伸ばして食い荒らす……ような事になるのではないかと危惧していたが、その懸念はあっさりと覆されていた。
「……息子が言っておったのだがな……あのスライムめ、きちんとカトラリーを使って、しかも上品に食事できるそうな」
「それは……また……」
「徹頭徹尾、隙がありませんな」
・・・・・・・・
噂の怪人ネモに対する王国首脳部の評価は、〝評価に困る部分はあるが、一応は問題無し〟というところに落ち着いたようだ。




