幕 間 異端児見極め隊 2.ショウダンス
~No-Side~
王国始まって以来ではないかと噂される異端児ネモ。ひょんな経緯からそのネモを迎える事になったオルラント王国の王城では、ホストとなる王宮関係者が、そのネモの一挙手一投足を注視していた。
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「レクター侯爵のご令孫をダンスのパートナーにするなど……あの背丈の差では無茶と思っておりましたが……」
「その〝背丈の差〟を上手く使いおったのぉ……」
彼らの目の前では、ネモがミリエット嬢をパートナーにして、アイスダンスも斯くやという華麗な演舞を見せていた。彼女が小柄で軽いのを逆手に取って、アイスダンスのリフトやツイスト(スプリットツイストリフト)、果てはデススパイラルという大技までも繰り出して見せたのである。
のみならず、ネモの相方を務めたミリーまでもが見事に息の合った演技を見せた事で、観衆の感嘆と不審は弥が上にも盛り上がっていく。
「……あそこまで息の合ったダンスは、即興でできるようなものではないと思うが……」
「そうすると、ミリエット嬢はどこであのダンスを身に着けたと?」
「ふむ……」
振り付けがきちんと形になっている事を考えると、その場の即興ででっち上げたものとは思えない。と言う事は、ああいう形式のダンスがどこかに存在し、それなりに認知されているという事だろう。そしてその一方で、ああいった「ダンス」はこの国では知られていない。……という事は、あれは異国の「ダンス」である可能性が高い。
「……彼の少年のこれまでの言動に鑑みるなら、ダンスをはじめとする異国の文化や風俗に接する機会があり、しかも王都から隔たった位置にある場所……という事になる」
「湖水地方……ですかな?」
河川の舟運によって他国と繋がり、沿岸都市と王都を結ぶ街道上にある湖水地方ウォルトレーン。あそこなら確かに条件を満たすだろうし、何よりネモの故郷でもある。
「そう言えば……レクター侯爵は去年あそこを訪れたとか」
「その折りにネモと知り合った可能性は考えられる――か」
一同の胸中で、湖水地方ウォルトレーンの存在感が次第に大きくなっていく。
「まぁ、その詮索は後に廻すとして……改めてあの『ダンス』について考えてみたいが?」
「うむ。確かに軽業めいてはおったが……にも拘わらず、下品な感じは受けなんだ」
「そもそもあのダンスは、礼法に適ったものなのですかな?」
一同の視線が再び儀典局長に集まるが、
「……難しいところですな。規格外なのは確かですが、パートナーの女性を貶めるような振る舞いはありませなんだ。背丈だけみれば大人が子どもをあやしているようにも見えそうですが……」
「そうは見えなかった――と?」
「あれは子ども扱いではございますまい。振り付けは確かに型破りでしたが、きちんとパートナーとして遇しておりました」
「つまり――ちゃんとしたダンスの型になっておったと?」
「如何様、然様にございます」
そうなると、残る問題は〝ダンスとして〟品を欠くところが無かったか否か。
「そこが難しいところなのでして……従来のダンスとは一線も二線も画しておりましたゆえ、評価しかねるとしか」
「むぅ……」
「確かに……」
「ただ……軽業紛いにパートナーを振り回しておったにしては、きちんとダンスの型になっておった。下品な見世物めいたところはありませなんだゆえ……」
「品を欠いておったとは言いかねるか……」
「如何様。ただし――」
「ただし――?」
ここで典礼局長は言葉を切ると、
「妙齢の女性をパートナーとしてあの『ダンス』を行なった場合、果たして卑俗に陥らぬかどうか……ここが評価の要となりましょうかと」
「ふむ……」
それでは――と、一同目を皿のようにしてネモのセカンドダンスを待っていたところが、
「……セカンドダンスのパートナーは、レンフォール伯爵夫人ですな」
「先程のような目覚ましさは無く、寧ろ精彩を欠いておりますが……」
「その分、無難な形に収まった――と」
――どこまでもケチの付けにくい相手であった。
「まぁ……我らとしては重畳の次第なのだが」
「ダンスのパートナーが、共に上下に適齢を外れておりますからな。色仕掛け……おっと失礼、下種な手での籠絡は難しいかと」
「それ以前に、パートナーがレクター侯爵家とレンフォール公爵家の縁者だ。あれでは迂闊な真似はできまいて」
「とりあえず、好ましからざる火種とはならぬようですな」




