幕 間 異端児見極め隊 1.スリーピースと蝶ネクタイ
~No-Side~
王国始まって以来ではないかと噂される異端児ネモ。ひょんな経緯からそのネモを迎える事になったオルラント王国の王城では、ホストとなる王宮関係者が、そのネモの一挙手一投足を注視していた。
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「……初っ端からいきなり決めてくれたねぇ……」
当惑と感嘆、そして幾分かの羨望を含めた声を上げているのは、この国の王太子であるアルマンドである。弟・ローランドの我が儘によって、ネモを王城の舞踏会に招く羽目になった時、幾許かの懸念を覚えつつもそれに同意したのは、噂に高いネモをその目で見てみたいという思いがあったからである。
尤も、同じような感興を抱く者は他にも多かったと見えて、〝ローランド王子がそうおっしゃるなら〟――と譲歩する体裁を取って同意したのであるが。
……下世話な言い回しでは、こういうのを「生贄」とか「人身御供」とか、或いは「身代わり地蔵」とか言うそうである。
ともあれそういった裏事情の下に、何も知らぬネモが王宮の舞踏会場に誘い込まれて来たわけだが……その出で立ちがそもそも異色であった。
「……あれは……制服の下に共布のベストを着ているのかな?」
「そのように見えますな。……王城ではなく、暖房が効いておらぬ会場を想定しておったのかもしれません」
「あぁ……それなら納得できるが……しかし……?」
「首周りの――リボンのようなものであろう?」
「未成年はクラヴァットの着用を禁じられておる。その代わりには金鎖を付けるのが慣例となっておるが……」
「むぅ……男子がリボンとは……」
「いや……しかし、あれは『リボン』と呼んでよいものなのか?」
「……確かに、通常の『リボン』とは一線を画しておるが……しかし、他にどう言えと?」
アルマンド王太子をはじめとして、居並ぶ王家の関係者や高官が悩んでいるが、
「……爺、あれは礼法に背く出で立ちか?」
「……そうは言えませぬな。確かに異彩を放ってはおりますが、その中に一本、確りとした筋が通ってございます。異国の礼装として扱うのが妥当かと」
国王・レオナード三世からの下問を受けた儀典局長――国王幼少時の教育係――が、マナーに反するものではないと答える。しかし、
「お待ちを。あれは異国の礼装だと言われるのか?」
「そうは言っておらぬ。〝異国の礼装として扱うのが妥当〟と申したまで。平たく申せば、あの形を咎める根拠が無いという事じゃ」
「うむ……」
儀典局長にそう言われてしまえば、ネモの出で立ちを咎める事はできない。素より、平民出のネモを王宮になど差し招いたのは自分たちなのだ。誘拐紛いに引き摺り込んでおいて、その服装にいちゃもんをつけるなど、王国首脳部として鼎の軽重を問われかねない。
……尤も、ここに居並ぶ全員が、そんな事など考えてもいない。彼らが気にしているのは唯一つ。
「では……あの形は礼法に適ったものであると?」
「儀典局の公式見解としては――少なくとも、非難されるべきものではありませぬな」
「それは重畳」
「ベストは問題無いとして……あの、首に巻いた『リボン』が難題ですな」
「女物の『リボン』よりは硬めの生地のように見えるが……」
「結び方にも一工夫ありそうですな」
「……弟を通して確認してみるべきかな」
「殿下、その際にはどこの店に発注したのかも、是非ご確認を」
……ネモの斬新なファッション、あれをどうやって手に入れるかという事であった。




