第五十章 仮免舞踏会の夜 10.ダンスが済んで
~Side ネモ~
舞踏会が終わった後で、ネイトさん家――レクター侯爵邸とも言う――にお邪魔させてもらった。ジュリアンやお嬢たちは来なかったな。色々と柵があるとか言って。ま、こっちも少しばかり突っ込んだ話があったんで、好都合と言や好都合だったんだが。
ミリーがお睡になったのを潮に、ネイトさんと少し突っ込んだ話をしたんだが……
「……え? 湖水地方での大水蛇の増加って、あの三馬鹿が関わってたんですか?」
「そのようじゃ。尤もネモ君たちが頑張ってくれたお蔭で、大水蛇が増えた事自体、話題になってもおらなんだがの」
「はぁ……」
確かに去年・今年と大水蛇が増えてたが……水産ギルドでも〝ちょっと面倒〟ぐらいの認識だったからなぁ……
ゲームの流れと付き合わせても、何で〝討伐隊の編制〟なんて大袈裟な事になったのか理解できなかったんだが……あの三馬鹿が仕掛けたんだとしたら、不発に終わっても不思議は無いか。
「あの馬鹿どもは、湖水地方での騒ぎを、キャンプ地襲撃の陽動とする肚だったようじゃ。それを狙って魔石を散撒いたと白状しておった」
「あ――キャンプ場襲撃犯と組んでたんですか」
「完全にというわけではなく、緩い協力のようなものであったらしいがの。ディオニクスの件もあやつらの仕業らしい。まぁ、ディオニクスには途中で逃げられたようじゃが」
「あー……育ちきる前だったんなら、あそこまで脆かったのも納得ですね」
「……脆かったのかね?」
「【着火】一発で片が付きましたからね」
仮にも王都を恐慌に陥れようってんなら、もちっと強力な魔獣を寄越すべきだよな。ゴ○ラクラスとまでは言わんが。
大方湖水地方でも、散撒く魔石をケチったんだろ。
「……あり得るかもしれんの。魔石を与えられて巨大化した魔獣は、更なる巨大化のために共食いするようになるんじゃ。もしも大水蛇の数がもっと多かったら、共食いして強大な個体が誕生しておったかもしれん」
……そんな設定は初耳だが……だとしたら、去年の夏にミリーを襲おうとした大水蛇が、ゲームほど大きくなかったのも説明できるかもな。数が少なくて共食いの機会に恵まれず、大きく育つ事ができなかったんだろう。
あ……ひょっとして、今年狩ったあのバカでかいクマ公もその口か?
「まぁ……ネモ君たちが片っ端から狩ってくれたのも大きいんじゃろうが……」
「いや、そこまでの事はしていませんよ? 数が多いと言っても、所詮は誤差の範囲でしたからね」
討伐隊の編制なんて話にゃ、端からならなかったわけか。ゲームと現実は違うもんだな。
・・・・・・・・
ネイトさんから色々と面白い話は聞けたが、俺の本命はそっちじゃない。討伐隊が来なかったんで、古道具屋の店先で侘しく髀肉の嘆を託っていた魔剣イルヴァラード、こいつの始末を付ける事だ。
「実は、ネイトさんに見てもらいたいものがあるんですよ」
「ほぉ?」
俺はそう言って、【収納】に仕舞ってあった「炎の魔剣イルヴァラード」を取り出した。その時にネイトさんの頬がピクリと動いたけど、俺が【収納】持ちな事ぐらい、ネイトさんがあの「レクター侯爵」なら先刻承知だろうし、面倒だから説明はスルーで。
「……それは?」
「ウォルティナの古道具屋の店先で見つけたんですけどね。何か気になったもんで。ネイトさんなら刀剣に興味があるとかおっしゃってたから、何か判るんじゃないかと思って」
赤錆だらけの赤鰯で、とても魔剣にゃ見えないが、ゲームではレクター侯爵にも赤錆は落とせたから、ネイトさんならイルヴァラードの正体は判るだろ。確か剣に興味があるとか言ってたから、俺が押し付けるのも不自然じゃない……筈だ。
その後は、どうにかしてネイトさんからレオのやつの手に渡るよう算段して……と苦慮していたんだが……能く考えたら、俺がレオの事をそこまで気にしてやる必要は無ぇじゃねぇか。
「ふむ……確かに何やら気を引く代物じゃが……」
「放っといたら鋳潰されて馬の蹄鉄か何かに変えられそうだったし、けど俺が持ってても仕方がないし、ネイトさんなら上手く捌いてくれるんじゃないかと、当てにしてるんですけどね」
「ふむ……」
この後はもう運任せだな。俺が気にする事じゃない。首尾好くレオの手に渡るかどうか、そこまでは俺の知ったこっちゃない。レオかイルヴァラードの運に期待――ってとこだな。




